アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「とりあえず乗って。」

「乗って?って。これ。」

「俺の車だし。」

「連れ去り?」

「ばか、何言ってんの。仕事場にはいつも車だからさ。しょうがないとあきらめろ。」

男の人の車に一人で乗るっていうのも、初めての体験だった。

そういえば、奏汰は美鈴よりも随分年上で、立派な社会人だった。

こんな大きな車が買える奏汰に、あらためてふふーんと思う。

いつも「ガキ」扱いされて、不満だったけど、そういう扱いされても当然だったわけで。

「じゃ、失礼します。」

一応普段より丁寧に頭を下げて車に乗った。

隣の運転席には奏汰がどかっと乗る。

車の扉が勢いよくバタンと閉まり、エンジンがかかった。

車はゆっくりと夜の町を走り出す。

なんだか、ちょっとドラマの1シーンみたいじゃない?

そんな雰囲気に慣れてない美鈴はそんなことを思った。

大人っぽい薫なら、きっとどってことないよって笑うんだろうな。

そういえば、拓海は車なんか乗るんだろうか。

大抵の大学生は車持ってるし。

ひょっとしたら薫も拓海の助手席に乗ったのかもしれない。

ふとそんなことを思い、胸がざわついた。

「お前、えらく静かだな。おびえてんのか。」

奏汰が、心配そうな声で聞いてきた。

ふと我に返った美鈴は笑って言った。

「っていうか、どうして今日は誘ってくれたんですか?」

奏汰はしばらく黙ったまま車を走らせていた。

前の信号が赤に変わり車は静かに停まった。

「お前とは長い付き合いだけど、ゆっくりしゃべったことないなって思ってさ。」



< 84 / 143 >

この作品をシェア

pagetop