アイボリー~少しだけあなたにふれてもいいですか?
「へー。」

とりあえず、どう返していいかわからなくて、美鈴は笑った。

普段と違う奏汰の空気に違和感を覚える。

「何か、話でもあるんですか?」

「話?」

「だって、ゆっくりしゃべりたいってことは何か話したいことでもあるのかなって思って。」

「話したいことがなくちゃ誘っちゃいけない?」

奏汰の目が一瞬美鈴の方を向いた。

奏汰もいつになく緊張しているのか、表情が硬い。

美鈴は、二人きりで車に乗っていることに今更ながらドキドキしていた。

これって、どういうことだろう。

奏汰は、お兄ちゃんみたいな存在で。

きっと奏汰にとっても美鈴は妹みたいな存在で。

今二人きりで車に乗ってる。

特に理由もないのに。

信号が青に変わり、車は動き出した。

「とりあえず腹減ったし、どっか食べに行こうか。美鈴は何か食べたいものあるか。」

とりあえず沈黙をやぶってくれた奏汰にホッとする。

「とりあえず、カレーとパスタはパスで。」

「カレーとパスタ?」

「最近食べに行ったから。」

奏汰は軽やかに笑った。

「相変わらず、遠慮しないやつだな。そういう時は『お任せします』とか普通言うもんだと思うけど。」

「だって、何が食べたい?って聞いてきたのは田村さんじゃないですか。」

美鈴は頬を膨らまして、奏汰を軽くにらんだ。

「ま、そうだけどさ。」

奏汰は笑いながらハンドルを右に回転させた。

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