見えない何かと戦う者たちへ
ソノは
校舎裏にある水道で何度も何度も手を洗った。
それだけでは済まず
顔、首、腕、脚と皮膚が痛むのではないかと
思うほど洗っていた。
本当は頭や胸も洗いたかったが
なんとか堪えた。
ソノは左手で胸を、
右手で頭を押さえて顔をしかめた。
頭だけじゃない、
胸の中まで真っ白になる感覚がするのだ。
そんな白いキャンパスの中を
チカチカと赤い斑点が点滅する。
それは人に触れる度
ソノを襲っていた_____。
…その頃、
廊下に置き去りにされた三人は
黙って廊下に落ちたノートを集めていた。
「…これで全部だよな」
最初に沈黙を破ったのは
垣内だった。
多分この微妙に重たい雰囲気が
我慢できなかったのだろう。
明日香もそれに甘えて
ヨシッと少し声を出しノートを持った。
このまま何も触れず、
行けると思った二人だった。
…が、
「…そのくん」
と呟いた美結に
あぁと二人は密かに肩を落とした。
(やっぱ
話さなきゃなんねぇのかな)
(やっぱり
話さなきゃいけないのかしら)
うーん、と
唸りながら進む二人の後をとぼとぼと美結は着いていった。
「…あのぉ」
明日香と垣内は
申し訳なさそうに口を開いた美結にビクッと肩を上げた。
美結はなんか
この二人似てるなと思ったが
何も言わなかった。
「やっぱりそのくん、
ツインテール嫌いなのかな?」
美結は真面目な顔して二人にうったえた。
案の定、
二人は固まった。
「えっと、ツインテール?」
また垣内が沈黙を破った。
確かに
美結はここ最近髪を二つに結っている。
「初めて話したときは私髪下ろしてて、
そのときは普通だったの!
でも次話したときはなんかちょっと避けられちゃったの。
さっきもすごい避けられちゃったし…
それで私なりに色々思い出して考えてみたの!」
「…それがツインテールが原因だと?」
垣内は美結とほとんど話したことはない。
だから、
美結がどんな人物なのか知らない。
だが、今わかったことがある。
(コイツは正真正銘の天然バっ)
「美結はバカじゃない!」
明日香は垣内の心を読んだかのように
突っ込んだ。
美結は
頭にハテナマークを飛ばした。
「…美結、
気になるなら本人に聞いて方がいいわよ、
なるべく近づかないようにして」
「近づかないように?」
「えっと、ほらっ、えーと…」
明日香は言葉を濁らせた。
「その辺りもちゃんとその本人に聞いた方がいい」
まるで助け船を出すように
垣内には似合わない真剣な顔で言った。