見えない何かと戦う者たちへ
その日の放課後、
学校の都合で全部活がオフになったため久しぶりに明日香、美結、懍の三人で帰ることになった。
三人とも同じ電車なのだが
明日香は部活でだいたい美結と懍の二人で帰っている。
懍が"中二病"とのバトルについて語り
それを美結が嬉々として聞いていた。
「まだ話し足りてないようだし、
その辺寄って帰る?」
明日香の提案に他の二人ものり、
近くのフードコートに入った。
「…明日香って
そのくんの幼馴染なんだよね?」
軽食をとっていた手を止め
美結は質問し始めた。
思わずポテトをつまんでいた手を止めた明日香は
何かを諦めるように頬杖をついた。
「そのくんの潔癖症はずっと前からなの?」
その問から
明日香は口を開くどころか、
なかなか動かなかった。
だが明日香の隣では
懍が三つ目のハンバーガーをモグモグしていた。
ついでにいうと
近くの席に垣内らしき人影がハンバーガーの山を食べている。
「美結はそれを聞いて
どうしたいの?」
質問を質問で返された。
美結と明日香の間だけ
異様に重たく冷たい空気が漂っている。
そう、
本当にその二人の間だけ。
懍は食べ終わると
周辺の可愛い女子を見かけてはニヤニヤし、
男子二人で来ているのを見ると妄想で悶え始めていた。
そして店内の別の場所では
近くにいる垣内らしき人の周りに
彼の食いっぷりを見ようと人集りができている。
「私はそのくんの力になりたい!」
「本人が特に治したいと思ってなくても?」
明日香の言葉に
美結は身体を凍らせた。
確かに、
それは考えてもいなかった。
潔癖症は別に悪いことではないし、
世の中にそういった人は割りとたくさんいる。
だがちょっと彼は
度を過ぎた潔癖症に見えたから美結は明日香に質問したのだ。
「…他人から言われるのもどうかと思うけど。
一つ言うならば
そのの潔癖性は昔はあんなにひどくなかったわ。
あんなにひどくなったのは、
むしろ最近って言ってもいいくらいよ。」
明日香の冷たく聞こえる声がやんだ。
その瞬間、
三人の席近くで拍手が沸き起こった。
どうやら
垣内らしき人がこの店の大食いチャレンジに成功したようだ。
懍はいつの間にか
近くにいた幼女と仲良く話し込んでいる。
「…それってどーゆー」
「よっ、奇遇だな」
美結の言葉を途中に垣内が三人の元へ
やって来た。
やっぱりさっきの
大食いチャレンジャーは垣内だった。
「…俺も一つ、質問していいか?」
明日香は答えるわけではなく、
頷いたわけでもない。
ただ垣内を見つめた。
それを肯定だと受け取り、
口を開いた。
「そののこと、どー想ってんの?」
垣内は明らかに美結の方を向いて言った。