見えない何かと戦う者たちへ
ソノは
特に急ぐ用事もないのに階段を速足で駆け下りた。
今日の放課後はやはり人は多いが
みんな教室か廊下にいる。
階段には人気もなく、
静かな場所となっていた。
床に座るのは苦手なので座らなかったが
本当は足に力が入らないくらいだった。
どうして立てているのか不思議なほど
身体が恐怖でいっぱいになっている。
(ちょっと肩触られたくらいなのに…)
行き場のない拳を壁に叩きつけることもできず、
ただただ強く握りしめた。
「そのくん?」
明日の文化祭で使う、
大きな箱を持った美結が階段を上がってきた。
いつもと変わらず
可愛らしい笑顔を浮かべ適度な距離を保ってソノに近寄った。
「!?」
美結はいきなり箱を下すなり
手を出したり引っ込めたりした。
視線は彼の右手だった。
「痛くないの?大丈夫?保健室行く?」
ソノはあまりにも痛々しいそうに彼女が自分の手の様子を
覗おうとするので気になって右手を持ち上げた。
見ると
白い手袋が赤くじわじわと染まっていっているのがわかる。
ゆっくり拳を開くと
指先と手のひらの中央に赤色が広がっていた。