見えない何かと戦う者たちへ


「垣内君とそ、のくん…」



明らかに美結の顔つきが変わった。

話の主人公が出てきて喜んでいるわけでもなく、
恥ずかしがっている様子もない。



垣内が指さして
明日香たちのところにいっていいか聞いている。

明日香は美結をちらりと見たが
目を大きく見開いたままかたまっていた。



明日香はもう一度窓越しに垣内と目を合わせ
手招きした。

垣内は動かないソノを
無理やり引っ張って店まで入ってきた。




明日香と美結が
向かい合って座っていたので
垣内は一度どこに座るのか悩んだ。


「…俺、帰っていい?」


制服を引っ張られて苦しいのか
真っ青な顔をしたソノが申し訳なさそうに呟いた。




その間に
垣内は美結の隣にちゃっかり座っていた。

もうメニュー表も開いて
食べる気満々のご様子だ。

美結も垣内の隣で
メニュー表をのぞきこみ一緒に何を食べるか
考えていた。



「おい、その食べないのか?」

「…あー」


座らずに
いまだに立ったままのソノを見て
明日香は気付いた。






「…もしかして、座れないの?」


「っ!?
……あぁ、うん。ごめん。」




ソノは普通に座っている三人をみて
苦笑とも言えぬ顔を作った。


(こんなに潔癖症、ひどかったかしら…?)
と明日香は眉をひそめた。


美結と垣内も
聞こえているはずだが無視して
料理を選んでいた。





「…俺、帰るわ」




かばんの持ち手をぎゅっとつかみ、
逃げるようにして去って行った。


誰も追いかけるどころか
声もかけなかった。


店内にいなくなったころ、
"さっきの人かっこよかった"と騒ぐ
他の客の声が異様大きく聞こえた。




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