見えない何かと戦う者たちへ
何があったのか聞いていいのか
懍は迷っていた。
ソノは変わらず同じ距離を保って
後ろをついてくる。
が何度か振り返っては
存在を確認しないといけないほど
ソノから物音一つしないのだ。
また懍はチラリとソノの様子を
伺った。
やはり
下を見るのでもなく前見ているわけでもない
どこを見ているのかわからない瞳でフラフラと歩いている。
無駄に顔が整っていて
愁いのある表情なので
もはや操り人形のようだ。
さすがの懍も心配になって
つい口を開いてしまった。
「…何があった?」
「…」
口を開いたあとに
まぁ答えるわけないかと諦めて前を向いた。
「…初めて、人に、触れたいと、思ったんだ…」
つぶやくような音量で言ったので
あまり聞きとれなかった。
自分の質問に答えてもらったにも関わらず
懍は反応に困ってしまった。
だが
思考とは別に勝手に懍の口が動いた。
「それは…、美結なのか?」
ソノは何も言わなかったが
この沈黙は肯定と受けとるべきなのだろう。
雨のせいで
微妙にソノの声が聞きとりづらい。
かと言って
立ち止まって話をするほどの仲でもない。
「…潔癖症のお前が人に触れたいと思ったのか?
それで?触れたのか?
いや、そんなことできたのか?」
ふと懍が後ろを振り返ると
少し後ろで立ち止まったままの人形がいた。
下を向いているので
どんな表情をしているのかよく見えなかった。