見えない何かと戦う者たちへ
「そーいえば、話したことなかったねー。
私の名前、わかる?」
「…えっと、ごめん」
「ううん、気にしないで!
まだ入学してそんなにたってないんだし…」
そこまで言うと彼女は立ち止った。
いきなり止まったのでソノはついついまたノートを落としそうになった。
彼女は笑顔で振り返って
言った。
「和呂美結(わろみゆう)です!
よろしく、相田そのくん!」
なんだろう、
この心拍は。
火照る頬は。
だがやはり胸の中が
白く染まる感覚がある。
何かひらめきそうな
何かわかりそうなのにその白い何かが
邪魔をする。
手袋の中の手がなぜか急に汗ばんだ。
ああ、
手を洗いたい、汗が気持ち悪い。
でも、
この場を離れたくない自分がいることにソノは気づいていた。
「前から思ってたんだけど、
相田そのくんはどうしていつも白い手袋をしてるの?」
「……の、」
「え?」
「…その、でいい…」
「ん? あっじゃあ、その君!」
彼女は一度頭にはてなマークを飛ばしたかと思うと
すぐに持ち前の明るい笑顔に戻った。
彼女の笑顔は恥ずかしい、
いやこそばゆい感じだった。
ソノは手で顔を隠したかったが
ノートのせいでそれはできなかった。
絶対今顔赤いだろうな
と思いながらせめてものの行動で下を向いた。
彼女はもう向き直っていて、
まっすぐな廊下を歩み始めていた。
(あっ、結局手袋のこと聞けなかったな
まあまたでいっか!)
と気軽に考えてた
美結だったが
その選択がまさかあんなことを招くなんて
このときは思ってもいなかった___。