見えない何かと戦う者たちへ
「なんか熱心にやってるわねぇ、
なに?なんか調べもの?」
明日香の母は
正座で家族全員分の洗濯物をたたんでいた。
母は少しぽっちゃりとしているが
まぁ年のせいでのものだろう。
明日香より小さいと思われる手で
ていねいにでも素早くたたんでいく。
「あーうん、まぁ…」
「ふふふっ、どうも煮え切らない返事ね
なにかあったの?」
明日香はいつも通りだと思っていたが
母親は自分以上に自分を知っているのだとこのとき思った。
「あっあのさぁ、
そっそのじゃなくて…
昔近所にいた"相田その"って覚えてる?」
母は
たたもうとしたタオルを広げたまま静止した。
冷蔵庫から麦茶を出して
飲もうとしていた明日香の手も止めてしまった。
それから
数分だったのか数秒たったのかわからないが
母が両手を下ろしてまた洗濯物をたたみ始めた。
「…もしかしてソノくん、
同じ学校にいるの?」
さっきの素早さはなかった。
ていねいさだけ残して
ゆっくりゆっくりたたんでいく母の姿が
なんだか懐かしいシルエットに見えてきた。