見えない何かと戦う者たちへ


そぉと息をはきながら
母は微笑んでいた。

「ソノくん、元気にやってるの?」



いきなり母が
台所にいる明日香の方に目線を向けてきたので
「えっあううん、うん」と意味のわからない
返事になってしまった。


それでも母は大笑いするのでもなく
問いかけるわけでもなくただただ微笑んでいた。





変な返事をしてしまった明日香本人は
顔を赤くしたが母の静かな笑みに自然と熱が戻った。





「…ソノくん、元気やってるのね
そぉ、よかったわ」

母は全てたたみ終わって
たたまれた洗濯物を置くべきところへ置きに立ち上がった。

なんだか明日香は
言葉よりさきに身体が動いていた。

母のあとを追おうと踏み出した足音に
母が気づいた。





「…なあに、明日香。
どうしたの?」






明日香は体勢を立て直してから
母へ視線をまっすぐ見つめた。


「ソノのことを教えてほしい、
覚えていることだけでいいから!」


明日香は初めて
母親に頭を下げた気がする。





母はどこか悲しそうな顔をして
ふふっと笑った。

そのまま明日香を残して
リビングを出た。

数分すると
大きな分厚い本を片手に母はまたリビングに現れた。




「…アルバム?」




明日香のふとでた問いに
母はこっちへ来るように手招きした。

ソファと小さいテーブルの隙間に
二人は肩を並べて座った。

明日香がちょこんと体育座りをしたことを確認して
アルバムをめくり始めた。







「…ほら、これがソノくんよ」







母はひどく辛そうな悲しそうな
複雑な表情で小さな男の子を指さした。








「…っ!?」







写真は幼い明日香と当時の友だちが
仲良く笑顔で映っていた。

だが
その後ろを母は指さした。



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