見えない何かと戦う者たちへ
――ガタッ
ソノは下を向いたまま
突然席を立った。
「おっ?じゃあ、相田
答えはなんだ?答えるか?
それとも垣内か?」
先生の声にまた
教室が笑う。
垣内もぶーぶー
頬を膨らませながら言っている。
「…っ…」
教室の賑やかな空気は
ソノの言葉を響かすことができなかった。
微かに聴こえた声を拾ったのは
美結と明日香だった。
そしてそんな美結を観察していた懍も
ソノが口を動かしていることに気がついた。
やっとクラス全員が
口を閉じ始めたときだった。
ソノが席を離れ
黒板へと歩み寄った。
口を開けているのは先生だけではなく
クラス全員の口がバカみたいに開いていた。
このクラスは特進クラスなはずなのに
今ある顔は全部アホ顔だ。
「…あ、いだ…?」
すぐ隣に立ったソノに
驚きながら教師は何とかしゃべった。
「…先生、俺が答え書いていいですか?」
自信のないような、
でもやっぱり男の子なんだと思わせる声で
まっすぐうったえた。
びっくりしすぎてとうとう口を
動かせなくなった先生はとりあえず首を動かした。
イエスだととらえたソノは
黒板を正面に捉え、チョークに目をやった。
いざやると言ったものの
やっぱり汚ない!触りたくない!菌が!細菌が!
と頭の中が胸が真っ白になる。
手袋をしているにも関わらず
やはり触りたくないと思ってしまうのだ。
ソノはギュッと目を閉じた。
ひとまず落ち着こうとしたのだ。
真っ白に汚れた胸の内を
徐々に溶かすようにゆっくりゆっくり深呼吸をする。
真っ白だった頭も酸素が突然回り出したかのように
正常になった気がした。
さっきとは違って
ソノは勢いよく目を開けた。