静かにみちる
音も無くみちる
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「…今日はありがとうございました」
冷たい雨が、元から冷えていた頭を濡らし体温を奪う。
この日の為に毎年新調するスーツは、今年は雨でダメになりそうだった。
毎年号泣する琳子は黒い長めのワンピースの裾を握りしめて彼の話を聞いていた。
一年の中で、この日が一番僕にとって大切だった。
一年の中で、この日が一番憎かった。
せっかくセットしていた髪を雨で崩されながらも、あまり動かない良治(りょうじ)君が静かに呟く。
琳子が隣で話を聞きながら泣いているはずなのに、なぜだが僕はいつも良治君が話し出すと他の音が聞こえなくなる。
それは、良治君がすごく丁寧に言葉を選びながら彼との思い出を話すからだろう。
それは、僕らを気遣ってか、自分の為か、いや多分彼の為に。
死者に敬意を払い、彼の素晴らしさをいつも良治君は語ってくれるから、僕の知らなかった彼に彼がいなくなってもまた会えた。
空は明るいはずなのに、いつもこの日は心が暗い。