ハナノナミダ
喉が渇いて声が出しにくい。
先程よりも心拍数が上がって、呼吸が出来ないほどとても苦しい。
「早くしないと、追っ手が…きちゃ…う…」
走らなきゃいけないと思っても、前に進む処か息が乱れていくばかりで。
鉛をつけたように重く感じた脚はこれ以上走らせてくれなかった。
「……っ…」
駄目だ。もう…限界…。
ゆっくりと視界が狭くなる目に、何かが映った。
「何…あれ…」
大きくて黒い物体。
何か、唸り声のような音が聞こえる。
人…ではない。
目を見開いて驚いていると、大きくて黒い物体は、物凄いスピードで私に近付いてきた。
「ひぃっ!?う、嘘……!!」
あれは…
熊…だ。
大きくて黒い物体の正体は…熊。
ざわっと全身の肌に鳥肌がたち、私は慌てて逃げようとする。
だが、驚きのあまり腰が抜けて
立ち上がれない。
このままでは、私は食べられて『死ぬ』
折角吉原を脱け出してここまで来たのに…
絶望のどん底に落ち、何もかも諦めた
その瞬間――――
「伏せろ!!」
私に、奇跡が起きた―。
言われるがまま私は体を伏せて踞っていると、グサッと耳に残るようなとても嫌な感じの音が響いた。