二回目の恋の始め方



一瞬、シーンと静まりかえる室内


「あ、えっと、私...飲み物持ってくる」


直美がそう言って部屋を出ていくと同時に幼馴染の、奏の声が響き渡る


「あーえっとな...出ていった」


ハハハと乾いた笑みを浮かべた奏はまるで今にも泣き出しそうな辛そうな、昔見た泣く寸前の顔をしてた


奏のお母さんは凄く綺麗で儚くて、私の憧れの女性だった


大人になったらこんな女性になりたいって思ってた


優しくて穏やかで何時もニコニコしてて料理上手な奏のお母さんは私を凄く可愛がってくれた

ウチに来ては女の子が欲しかったと言ってた奏のお母さんとは奏以上に仲が良かった


引っ越す時も奏よりおばさんと別れる事の方が悲しかったし、寂しかった


一体何が有ったんだと、気にならないと言ったら嘘になるけど、奏の顔を見れば、聞くに聞けなかった


「そっか...分かった」


少しも分かってなかったけれど、そう言うしか出来なくてシュンと落ち込む私に奏が気を使ったのか


「ユイは母さんと仲が良かったし...その内、な?」とすまなそうに呟いた

それに「うん」とだけ頷いておいた



「それにしても...ユイは少しもかわんねぇな」


クシャクシャと私の頭を撫でてくる奏にどう言う意味だと目を釣り上げると「チビだし?」と返ってくる


「ただ、アンタがデカイだけで私は普通なんですぅー」

ヘヘヘンと胸を張った私を子供だなと涼やかな目許を細めた奏


昔でも、こんなに話した事は無かったけれど、何だか楽しかったし、嫌じゃなかった


もしかすると、話さなかっただけで、話せば結構気があって盛り上がったのかも知れないと思いながら奏を見上げる


「ただいまぁ」


そう言いながら戻って来た直美はお盆片手にドアを閉める


テーブルに二つコップを置くとジュースを注ぎ、太陽にソレを渡す

そこからは昔話に華を咲かせて盛り上げる四人


たまにイチャイチャとする二人を見ながら私も彼氏欲しいな、なんて考える



も、顔をブンブン振り考えを改める

今、私達は受験生なのだ

特に行きたい高校は無くて家から一番近い高校を受験すると思うけど、ギリギリ行けると言った所なのだ

油断大敵と言う所でのんびりしてたら行ける所も行けなくなると、この前先生に言われたばかりなのだ


彼氏は高校入ってからだと心に決めているのだ


「そう言えば、三人は同じ高校行くんでしょ?勉強してる?」

そう、三人は仲良く同じ高校行く様で結構頭の良い学校だった筈


しかも、太陽のその頭...正確に言えばその茶色い髪と何個もぶら下がってるピアス


どう見ても地毛には見えないと指差せば「余裕余裕!黒に戻してぜーんぶ外すし?」と返ってくる

「当日はシャキッと真面目コクし?」とキリリ顔を整え太陽が言えば直美が「そうそう、太陽は外面だけは良いしねぇ」と笑う


そう言えば、ガキ大将で偉そうだったけど、勉強も出来てスポーツも出来て口が巧かったし、えらい外面が良かったこの男と思い出す


周りの先生や大人は太陽の外面に良く騙されてたっけ

私が苛められたって言っても信じてくれなかった事も有る



「俺って男優でもイケんじゃねぇ?」と調子に乗るから直美と奏に叩かれてた


直美がソッと差し出して来た紙に眼を通せばニヤリ笑う直美

真面目な格好して写真に写る太陽を見せられてボソリ呟いた


「...誰これ」


写真には爽やかなナイスイケメンがニッコリ微笑んでた


真面目なスポーツマンにも見える


「誰って俺だし俺‼」

指差して苦笑いする太陽と写真を交互に見比べながら「詐欺じゃない?」と呟けば「お前こそ詐欺だろ」と三人に呆れられる


「気が弱くて、儚げで大人しそうで清楚な雰囲気でオマケにロリ顔」

「そうそう、でも口を開けば結構バッサリ?私がその風貌だったらイケイケドンドンだけどね~可愛くて憎めない?なんちゅうお得な奴なんだ‼」とケラケラ笑うから

何そのイケイケドンドンってーと笑い合う私達を穏やかに見つめる二人の男


ロリの所は綺麗にスルーしといた

ロリ?何ソレ?美味しいの?だ


そう言えば確かに昔から大人しそうだとかよく言われるなーと思う


自分で自分の顔は地味だと思う


幼い顔立はコンプレックスだし低い身長は一日に何度牛乳飲んでも伸びない


「はいはいー誉めてくれてどうもねぇー地味女ですが何か?」

華やかな顔立ちの直美が昔から羨ましかった


あのね、直美...毎日羨んでたのは私の方なんだよ?知らなかったでしょ?


人見知りが激しい私は馴れるまで時間が掛かるし、昔からよく苦労した



明るくて友達も多くて綺麗な直美と居て、卑屈になってたのは私の方なんだよ?

優しくて皆の人気者な直美

でも、少し嬉しく思う私が居た。


「あー可愛い!照れてる‼」

ギュッとしがみついてくる豊満なナイスバディは実に羨ましい


発育が遅いのか幼児体系を中々抜けない私は実はコンプレックスの塊なのだ



今日、此処に来たのは気晴らしと、もう一つ...直美に悩み事を打ち明ける為だった


今の友達に相談しても良いけど、躊躇ってしまう


でも、今日は太陽と奏が居るから無理かなって思ってる



直美に聞いて欲しいって思ったのは一番信じられるし、茶化すでもなく真面目に聞いてくれて、私が話終わるまで口を挟まずに静かに耳を傾けてくれるから


私は今まで出会ってきた友人等の中で直美が一番何でも話せるし、大切な友人なのだ


そんな直美を裏切る事になるなんてーーーー


その時はすぐソコまで迫っていた





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