Another moonlight
その頃。

アキラは部屋でカンナの手料理を食べながら、どうやってカンナに別れ話を切り出そうかと考えていた。

アキラの考えていることなど何も知らずに、カンナはせっせと手料理をテーブルに運ぶ。

「いくらなんでも作りすぎじゃね?」

「ちょっと張り切り過ぎちゃった。無理して全部食べなくてもいいからね。」

アキラと一緒にいるのがよほど嬉しいのか、カンナはいつも目一杯アキラに尽くす。

健気なカンナを見ていると、アキラは自分勝手な理由でカンナを切り捨てようとしている自分がひどい人間だと思えた。

「そんな無理しなくていいんだからな。」

「無理なんてしてないよ。私がしたいからしてるの。」

そんなふうに笑われると、余計に話を切り出しづらい。

アキラはビールを飲んで、カンナには気付かれないように小さくため息をついた。

(カンナはこんなにオレを想ってくれてるのに…オレの勝手な都合で別れようなんて、やっぱ無理だ…。)

今日こそはと思うほど、カンナの顔を見ると決心が揺らぐ。

カンナのことは嫌いじゃない。

けれど、本気で好きにはなれない。

ぼんやりしながら料理を口に運んでいると、カンナがアキラのシャツの袖を引っ張った。

「アキくん、電話鳴ってるみたい。」

ハンガーに掛けた上着のポケットの中から、スマホがくぐもった音で着信を知らせているのが聞こえた。

「あ…上着のポケットに入れたままだったか。」
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