Another moonlight
うまくいかない恋の話
午後8時を少し過ぎた頃。
今日最後の予約客を送り出したユキがサロンの看板の明かりを消すと、辺りは更に暗くなった。
街灯が頼りなく住宅街の路地を照らしている。
薄暗く人気のない路地はなんとなく気味が悪くて、ユキは足早にサロンの中に入った。
ドアの鍵を閉め、ロールカーテンを下ろす。
ミナは一足先に仕事を終えて帰ったので、サロンの中にはユキ一人しかいない。
ユキが最後の客に使った道具を片付け終えて、パソコンで今日の売り上げや明日の予約などを確認していると電話が鳴った。
(もう営業終わったんだけど…予約の電話かな?)
せっかく電話をくれたお客さんをがっかりさせるのは申し訳ないと思ったユキは、受話器を上げて電話に出た。
「はい、Snow crystal…。」
ユキが言い終わらないうちに電話は切れてしまった。
受話器からは発信音だけが鳴り続ける。
(……また?やっぱいたずら…?それとも嫌がらせか何か?)
閉店時間は過ぎているし、普段はこの時間に電話が掛かってくることは滅多にない。
ミナが電話に出た時には無言で切れたことなど一度もないと言っていたのに、ユキが電話に出る時ばかりを狙ったように、今日はこれで5度目だ。
できるだけ気にしないでおこうと思っていたけれど、日に日にその回数は増えてきて、さすがに気のせいでは済まされなくなってきた。
しかしユキとミナの二人だけしかスタッフがいないので、まったく電話に出ないと言うわけにもいかない。
(私が電話に出た時だけなんて、なんか気持ち悪い…。)