Another moonlight
タカヒコと知り合った頃は、結婚を焦っていたわけでも、新店舗を出したいと思っていたわけでもないのに、まさか自分が狙われるなんて。

警戒心だけは人一倍強いと思っていただけに、ユキはショックを隠せない。

「うん…そっか…。私、騙されてたのか…。」

「ユキは彼のこと本気で好きだったの?」

激しく落胆しているユキに、ホノカは少し気の毒そうに尋ねた。

ユキは少し首をかしげた。

(好きだった…?いや、もちろん嫌いじゃなかったけど…そんなに好きでもなかったような…?じゃあなんで結婚しようと思ったんだろう?)

「多分そんなに好きでもなかったと思う。けど…優しいから、大事にしてくれそうだと勝手に思ってた。まぁ…店舗付きの一軒家の話が出てから、ちょっとおかしいなとは思ってたんだけどね…。」

エリコはうなずいて、ユキの肩をポンポンと叩いた。

「完全に騙される前に気付けて良かったよ。あれだね。ユキは独身で彼氏もいなくてサロン経営してるから、お金持ってると思われたんじゃない?」

「そうかな…。」

「もしかしたら、ユキが何か悩んでるのに気付いて、そこに付け込まれちゃったのかもね。」

何気なく言ったホノカの一言が、ユキの心にやけに引っ掛かる。

そういえば、タカヒコから結婚話を切り出されたのはいつだっただろう?

(いつだったっけ…?ストーカーに悩まされ始めた頃…?)

タカヒコにはストーカーのことは何も言っていなかったはずなのに、自分がストーカーに悩んで不安だったことを感じ取って行動を起こしたのかと思うと、ユキはなんとなく腹立たしい。

しかも具体的な話を強めに推してくるようになったのは、アキラに友達をやめると言われて会わなくなってからだ。

(私…アキがいなくなってそんなに弱ってた…?いやいやいや…そんなことないでしょ…。)

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