Another moonlight
ユキは遠い目をして、少し笑った。

「そんなことがあって、学校は次の日に辞めたんだ。警察も嫌い。宮原親子には頭が上がらないし、心から尊敬してる。」

「そんなことがあったんだな。」

「リュウもルリカさんも皐月さんも、このことは誰にも言わなかった。だからみんな知らないんだ。私にさえなんにも言わないの。優しいでしょ?」

「無駄なことは言わないって家訓でもあんのか?宮原家は。」

「あるかもね。何も言わないって、すごい優しさだと思う。」

ユキは穏やかに笑ってビールのグラスを傾けた。

マナブはリンゴの皮を剥きながら、ユキの方をチラッと見た。

「何も言わないのが優しさなら、20年以上も何も言わなかったアキはめちゃくちゃ優しいんだな。」

「なんでそこでアキの話になんの…。」

「いやー、なんとなく?」

剥き終わったリンゴを8つに切り分けて皿に盛り、ユキの前に置いて、マナブは顔をしかめた。

「そういや…アキ、最近どうしてんだろ?」

「さぁ…。私はずっと会ってないから。アキ、どうかしたの?」

「前にユキちゃんとカフェに行った日かな。店に来るって言ってたのに来なかったんだ。その後連絡ないし、店にも来てない。」

ユキはピックで刺したリンゴを口に運びながら、自分が電話してもアキラが出なかったことを思い出してムッとした。

「忙しいんじゃないの?結婚準備とか。」

「いくら忙しくても電話くらいできんだろ?あいつ、こっちから電話しても出ねぇんだ。」

グラスに残っていたビールを飲み干して、ユキはため息をついた。

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