Another moonlight
「だったらオレが…。」

アキラがその決意を口にしようとした時、店のドアが開いて新しい客が来店した。

「いらっしゃい…。」

ドアの方に視線を向けたマナブが目を見開いて固まる。

アキラが振り返ると、マナブの視線の先にはユキとタカヒコがいた。

「……ユキ…。」

ユキの姿を目にするのは何週間ぶりだろう?

結婚するのは辞めたと言っていたはずなのに、ユキの隣にはタカヒコがいる。

アキラは口を真一文字に引き結び、カウンターの上で拳を強く握りしめた。

ユキはカウンター席のアキラには気付かず、タカヒコと一緒に混雑した店の中を空いているテーブル目指して進む。

ユキとタカヒコはテーブルをはさんで向かい合い、運ばれてきたビールで乾杯した。

ずいぶん待たせているし、タカヒコは今日こそお金を要求してくるはずだ。

キッパリ断って何もかも終わらせよう。

ユキは何事もないような顔をして、その時を待つ。

「ホラ見て、アユミ。」

タカヒコは鞄の中からいくつかのパンフレットを取り出した。

「これ…何?」

「結婚式場のパンフレットだよ。これから結婚するって言うのに、ずっと店の話ばっかりだっただろ?あんまり高い費用はかけられないけど、ささやかでもいいから式くらいはちゃんと挙げたいなと思って。」

パンフレットをユキに手渡しながら、タカヒコはニコニコ笑っている。

「へぇ…結婚式…。」

(わざとらしい…。これで結婚話を盛り上げて信用させるつもりなのか?それとも費用の持ち逃げ企んでる…?)


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