Another moonlight
「タカヒコさんは…結婚ってなんのためにするんだと思う?」

「…えっ?」

ユキから思わぬことを尋ねられたタカヒコは戸惑いを隠せない。

「ここに書いてある。二人の永遠の愛を誓う…って。そんなもの…私とタカヒコさんの間にあると思う?」

パンフレットに書かれた文字を指差して淡々とした口調で尋ねるユキに、タカヒコは慌てふためいている。

「どうしたんだ、急に?オレはアユミが好きで、ずっと一緒にいたいから結婚しようって言ったんだよ。」

ユキはタカヒコの白々しい嘘を聞いて、小さく笑った。

「…新しい店は要らないって言っても?」

「……え?」

「私は今のサロンを手放したくないし、地元から離れたくない。だから結婚はしない。」

「ちょっと待てよ!なんで今更そんなこと!」

タカヒコが声を荒らげて椅子から立ち上がった。

二人の様子を離れた場所から見守っていたアキラとマナブ、八代は何が起こったのかと身構えた。

ユキは冷静な様子でタカヒコをじっと見上げている。

マナブは二人の様子を気にしながら、カウンター席に座っている客の注文したビールをサーバーからグラスに注いで手渡した。

「なんかもめてるみてぇだな…。」

ユキとタカヒコの間で何が起こっているのか、アキラは気が気でない。

今にも飛び出しそうな勢いで身構えている。

テーブル席の客に呼ばれたマナブは、注文を取るためにカウンターから出て、アキラの肩を叩いた。

「アキ…気持ちはわかるけど少し落ち着け。もう少し様子を見よう。」

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