Another moonlight
胸に秘めた想い
その日アキラは、3週間ほど続いた入院生活を終えて、久しぶりに自宅へ戻ってきた。
あのバーでの事件の朝に部屋を出たきりだったけれど、入院生活に必要な物は兄が取りに来て、入院中には母親が時々部屋に来て、掃除や空気の入れ換えをしてくれていたようだ。
何気なく部屋を見回すと、いつの間にかカンナが増やしていた調味料や食器が目に留まった。
いつも楽しそうに、食べきれないほどの料理を作ってくれたカンナの姿を思い出す。
(カンナが残してった物…片付けないとな…。)
一緒にいる時はカンナの異常なまでの愛情にあんなに悩んでいたけれど、今となってはカンナの想いに答えられなかったことが心苦しい。
あんなふうに終わってしまったことは心残りだが、あのままカンナと一緒にいても、いつかはもっとカンナを傷付ける形で終わりを迎えていたとアキラは思う。
どれだけ自分の気持ちをごまかしても、カンナにはすべて見抜かれていたのだから。
アキラが病院から持ち帰った入院中の荷物を片付けていると、スマホの着信音がなった。
(マナからか…。)
通話ボタンをタップして電話に出る。
「もしもし。」
「アキ、今日退院なんだろ?もう帰ってんのか?」
「ちょっと前に帰ってきた。」
「そうか。とりあえずおめでとう。退院祝いにおごってやるから、今夜店に来いよ。退院したとこで酒ばっかもなんだから、飯作ってやる。」
「そうだな…。なんかうまいもん食わせろ。」
「よし、決まり。じゃあ、夜にな。」