Another moonlight
昼休憩が終わった後、ユキのサロンに新規の客がやってきた。

大人しそうで清楚な感じのその女性に、ユキはどことなく見覚えがあるような気がした。

「予約していた広瀬です。」

「広瀬様ですね。どうぞ、こちらへ。」

彼女は、今朝サロンがオープンすると同時に電話で予約をしてきた。

初めて来店するので、ユキがいろいろなパターンのサンプルを見せながら好みを聞き出すと、彼女は落ち着いた色合いのあまり派手ではないネイルを希望した。

ユキは彼女の手にハンドマッサージをしながら、いつもの新規の客と同じように話し掛けた。

「広瀬様は初めてですよね?このサロンに来ていただいたきっかけは何だったんですか?」

彼女は少し考えるそぶりを見せた後、強ばった表情で口を開いた。

「あの……ユキさん…ですよね?」

「え…?あ…はい…。」

思ってもない返事に驚き、ユキの手が止まった。

「私…、広瀬 栞奈…です…。」

「カンナって…えっ…?アキの…彼女?」





今日最後の客を送り出したユキは、カウンターの中で一人ぼんやりとしていた。


“私、本当にアキくんが好きなんです”


カンナの言葉を思い出し、ユキはため息をついた。




カンナが選んだネイルを施しながら、ユキはカンナの話を聞いていた。

アキラがカンナをどう思っているかわからないのが不安だとか、付き合おうとか好きだとかハッキリした言葉を聞いていないので、自分は本当に彼女だと思われているのかもわからないとか。

会う時はいつもカンナが連絡をして、アキラの方からは1度も会いたいと言ってくれたことがなく、月に2度ほどカンナから連絡をして会っているそうだ。

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