Another moonlight
翌日。

仕事を終えたアキラが自宅に戻ると、部屋の前でカンナが待っていた。

「悪いな、待ったか?」

「ううん、そうでもない。」

カンナは手にスーパーの物らしき買い物袋を提げている。

「なんだ、買い物してきたのか?」

アキラが鍵を開けながら尋ねると、カンナは少し照れ臭そうに微笑んだ。

「うん。たまには晩御飯でも作ろうかと思って。」

「へぇ、いいじゃん。」

ドアを開けて中に入り、部屋の明かりをつけた。

アキラは今朝までここにユキがいたことが、カンナにバレたりはしないだろうかと素早く部屋の中を見回した。

今朝使ったカップは出掛ける前に洗ったし、灰皿に残っていたユキの口紅のついた吸い殻もゴミ箱に捨てた。

どうやら特に心配するほどの物はなさそうだ。

アキラはほんの少しの後ろめたさを隠すように、笑ってカンナの方を見た。

「で、何作ってくれんだ?」

「鶏の唐揚げと焼きそば。アキくん、好きでしょ?」

「へぇ、よくわかってんじゃん。」

アキラがワシャワシャと頭を撫でると、カンナは嬉しそうに笑った。

カンナがこんなに嬉しそうに笑った顔を見るのは、久しぶりかも知れない。

「お腹空いてるでしょ?急いで作るね。」

「おぅ、頼むわ。」

アキラはキッチンに立つカンナの後ろ姿を見ながら、タバコに火をつけた。

そう言えばこれまで、部屋に来てもカンナに手料理を作ってもらったりはしなかった気がする。

(こういうの、なんとなく新鮮だな…。すげぇ恋人っぽいっつうか…。)

きっとたいして好きでもない体だけの関係なら、わざわざ材料を買いに行ってまで相手の好きな料理など作らないだろうとアキラは思う。

それにしてもカンナが急に手料理を食べさせたいと言い出したのは、どういう風の吹き回しなのだろう?



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