Another moonlight
「なぁ、リュウ…。」

黙っていようと思ったものの、アキラはどうしても気になって、隣に座っているリュウトに小声で話し掛けた。

「ん、なんだ?」

いざ尋ねようとすると、やっぱり昔のことはそっとしておくべきかと、アキラはためらった。

「いや…あのさ……やっぱいいや。」

リュウトはその言いづらそうな表情で、アキラが何を聞きたかったのか察したらしい。

「あー…なんだ、あの頃のことか?」

「まぁ…そうだな…。もしかして…。」

「察しの通りだ。オレはなんにも知らずにトモの彼女に片想いしてた。結局、オレのせいで二人が別れることになっちまったんだけどな…。それも2年くらい前にトモに聞くまで知らなかった。トモはオレがロンドン行ってしばらくしてから気付いたんだと。それなのに11年も黙ってたんだ、トモのやつ。」

昔のことは昔のこととして受け止めているのか、リュウトは事も無げにさらりとそう言った。

「そうか…。なんか複雑だな…。」

「確かにビックリしたし、かなりヘコんだ時もあったけどな。今はトモたちが幸せならいいと思ってる。それに今のオレにはハルがいるしな。」

「ノロケか…?!リュウ、いつの間にそんなこと言うやつになったんだよ…。ノロケたくなるほど幸せなのか…?」

「何言ってんだ…。」

リュウトはノロケている自覚がないのか、アキラに指摘されてばつが悪そうにしている。

昔のリュウトは“ノロケ話ほどアホらしいものはない”とよく言っていた。

(リュウ、昔は“来るもの拒まず、去るもの追わず”で本気で誰かを好きになったりしないって言ってたのに…人って変わるもんだな…。)
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