Another moonlight
仕事を終えたアキラは行きつけのバーに寄り、いつものようにカウンター席に座ってバーテンダーのマナブにビールを注文した。

「いらっしゃい。」

「よぅ。」

マナブはバンド解散後、リュウトの後任としてバンドに加入した友人のカズヤと新たなバンドを結成して音楽活動を続けていたが、そのバンドも3年ほどで解散。

その後、兄が経営しているこのバーで働き始め、5年前に結婚して子供も生まれたのだが、昨年離婚した。

アキラはその理由は詳しくは知らないけれど、マナブから“だんだんうまくいかなくなった”とだけは聞いている。


アキラはバンド解散後からカズヤとは会っていないが、マナブの話によるとカズヤは新しいバンドの解散後も別のバンドに加入して、今でも仕事の傍らバンド活動を続けているそうだ。


「なぁ、マナ…なんか面白いことでもねぇかなぁ…。」

アキラはつまらなさそうにビールを飲んだ。

「面白いことねぇ…。」

マナブはカウンターの中で小皿にナッツを盛りながら考える。

「特にないけど…急にどうした?」

「今日な、仕事中に車ん中でアイツらの曲が流れててさ。懐かしかった。昔オレらがやってた曲だった。」

「ああ…アイツら頑張ってるよなぁ。昔一緒にやってたなんて嘘みたいだ。」

アキラは小さなため息をつきながら、マナブに差し出された小皿の上のナッツをつまんで口に放り込んだ。

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