Another moonlight
マナブはため息混じりにタバコの煙を吐いた。

誰だって本気で好きになった人を簡単に忘れられるわけなどない。

どんなに愛されたって、自分がその相手を愛せなければ、その関係はあまりにも脆く、遅かれ早かれ、いつかは音をたてて崩れてしまうことをマナブは知っている。

だけど今のアキラには、何を言っても無駄なようだ。

「アキがホントにそれでいいって思ってんなら、もう何も言わねぇよ。でもな…彼女をユキちゃんの身代わりにだけはすんな。アキが彼女自身をちゃんと愛せなきゃ、今度は彼女を悲しませることになるんだからな。」

「……わかってるよ。」

自分がリュウトの代わりにはなれなかったように、カンナもユキの代わりにはなれない。

アキラはまだ耳の奥に残る、泣きながらリュウトを呼ぶユキの声をかき消してしまおうと、グラスの水割りを飲み干した。

「オレだってさ…やっぱ、幸せになりてぇよ…。だからもう、ユキのことは忘れるって決めたんだ。」

マナブは呆れたようにため息をついた。

「わかってねぇな…アキ…。」

「何がだよ。」

「今のアキには何言ってもわかんねぇよ。」

「なんだそれ…。バカにすんなよ。」


マナブは知っている。

必死で忘れようとしているうちは決して忘れられないことも、忘れたいと思うほどその想いがどんどん大きくなっていくことも。

一生添い遂げようと誓った女性が去っていった日の悲しみ。

二人で笑い合った日の幸せ。

彼女がそばにいない寂しさ。

どんなに無理して笑っても、忘れられない彼女への想いは、今もマナブの心を強くしめつけている。





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