Another moonlight
「……?トモの言うことは、いちいち難しいんだよ。」

「まぁいいや。後悔だけはしたくねぇだろ?」

「そうだな…って、既にいろいろ後悔してんだけどな。」

アキラはマナブから受け取ったビールを飲みながら、いくつもの“もしも”を思い浮かべる。

「後悔って、後になって悔やむって書くじゃん?こうすることが一番だって今は思っても、後になってから“ああすれば良かったな”とか“あんなことするんじゃなかった”とか思うこと言うわけよ。」

「ああ…。」

「だからさ。なんもしないで悔やむよりは、今どうしたいのかアキが思うように動いてみたらどうだ?なんか変わるかも知んねぇぞ?」

今更一体何が変わるのか。

改めてフラれたら踏ん切りがつくとでも言いたいのか。

アキラにはやはり、トモキの言う言葉の本当の意味がよくわからない。

「なんだその有り難いお言葉は…。トモ、学校の先生になれば良かったのにな。」

「向いてるかな?もう一回勉強して大学受けてみようか。今度はちゃんと卒業して。教員免許なんかも取ったりしてな。」

教壇に立って授業をするトモキの姿が、アキラには容易に想像できた。

大学を中退していなければ、そんな人生もあったのかも知れない。

「いいんじゃね?」

「あー…でもやっぱダメだ。今の学校はどこ行っても禁煙らしいから。教師も学校いる間はタバコ吸えねぇんだってさ。」

「そんだけの理由かよ。」

「いや、オレは今の仕事に不満はないし。でも本気でやりたくなったらやってみるわ。」

自分にはあきらめた夢はあっても、やりたいことなどない。

トモキはきっと、人より多くのものに恵まれているのだとアキラは思う。

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