Another moonlight
「選択肢が多くていいな、トモは。オレにはやりたいことなんかなんもねぇ。結婚とかしたら人生変わんのかな?」

「結婚はそんなに甘くねぇぞ。」

カウンターの中で黙って二人の話を聞いていたマナブが、突然口を開いた。

「なんだマナ?急にどうした?」

アキラはいつになく真面目な顔でそう言ったマナブの顔を不思議そうに見た。

「お互いが同じ方向を向いてねぇと、途中で行く先を見失ってバラバラになるだけだ。」

「マナが言うと重みがあるな…。」

もしかしたらマナブが離婚した理由はそこにあったのだろうか?

よく考えたら、マナブが離婚した理由は詳しく聞いていない。

人には言えないような理由だったのか、それとも言いたくなかったのか。

アキラはなんだか急にマナブが離婚した理由が気になり始めた。

「なぁマナ…。こんなこと聞くのもなんだけどさ…なんで離婚したんだ?」

「すっげぇつまんねぇ理由だよ。オレが昔の恋人に似てたから結婚したんだってさ。」

マナブはタバコに火をつけ、カウンター越しに話を続ける。

「嫁はその男のことがめちゃくちゃ好きだったらしいけど、相手の都合で泣く泣く別れて、ずっと引きずってたんだよな。で、たまたまそいつとよく似たオレと知り合って、付き合って結婚した。けどオレはその男とは違うから、本気で愛せなかったんだってさ。結局、オレはただの身代わりだ。だんだんうまく行かなくなって別れた。」

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