Another moonlight
何かが足りない



ネイルの終わったユキとアユミは、サロンの近くのダイニングバーで食事をしていた。

ユキはいつものようにビールを飲み、あまりお酒が強くないアユミはアルコール度数の低いカクテルをゆっくりと飲んでいる。

「トモは待たなくていいの?」

「トモくんは友達と会って飲んでるから。後でこっちに来るって。」

「ふーん、そうなんだ。」

ユキは運ばれてきたばかりの唐揚げに箸を伸ばした。

「ここの唐揚げめっちゃ美味しいんだよね。アユも食べてみなよ。」

「ホント?」

アユミは箸でつまんだ唐揚げを取り皿に乗せてから口に運んだ。

「ホントだ、すごく美味しい!どんな下味つけてるんだろう?家でもできるかな?トモくんもマサキも唐揚げが大好きなんだよね。」

アユミの仕草はいちいち上品だ。

そして、美味しいものを食べて、どうやって作るのかとか、大事な人に食べさせてあげたいと考える辺りが、女として自分より数段上だとユキは感心した。

(さすが主婦…そして母親…。女子力とか言うレベルじゃない…。)

「今日はマサキどうしてるの?」

「母が見てくれてる。次は連れてってあげるから、今日はばぁちゃんと二人でお留守番しててねって頼んだ。」

「そっか、お母さんも一緒に暮らしてるんだね。」

シングルマザーのアユミにとって実の母親は心強い存在だろう。

しかし母親も子供もいたら、トモキと二人きりになることもままならないのではないか?

思春期の子供がいるのは何かと気を遣うに違いない。

それでもトモキはアユミと結婚することを選んだ。

マサキはトモキとアユミの子供なのだから当然なのかも知れないが、別の選択肢もあったはずだ。

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