ちぐはぐな心音
count1
出会い。
君と、初めてあったのが、高2の4月。
そのときかけた言葉は、今でもはっきり覚えてる。
「脱獄に成功した死刑囚みたいな顔だね」
5時間目の授業をサボって、彼も私と同じように、大通りを通って、ゲームセンターにでも行くつもりだったんだろう。
春風に制服をはらませて、軽やかに私の横を通り過ぎた時、一瞬見えた横顔は、なかなか整っていた。
着崩して、よれてしまった制服の襟と、甘い、香水の香り。
ひきつけられるのを感じた。
他に話しかける人がいなくて、寂しかったのかもしれない。
遠ざかる背中に、気づくとそんなふうに声をかけてしまっていた。
彼は、足をひたと止めた。
そして、ゆっくり振り返る。
振り返って…私に向けて、にかっと笑った。
「だってさ、英語教師が、ウザいもん」
魅力的な笑い方。
糸目になって、目尻にきゅっと皺がよる。
笑いがこみ上げてきた。
自分の意味不明な言葉かけが、出会ったばかりの人に通じたと思うと嬉しかったのだ。
くすくす、と声が漏れる。
彼は不思議そうに、そして少し面白そうに、私の顔をのぞき込んだ。
「何笑ってんの?もしかして、君もサボり?」
「うん」
頷くと、彼は少し後ずさって、私を上から下までジロジロ見た。
「その制服は…女学院じゃん。嘘つかなくていいよ、お嬢様」
自然と頬が膨らむ。
それに気づかなかったか、彼はさらにこう言った。
「あそこ金持ちで、頭いいやつばっかじゃん。君もあのあれ……社長出勤とかいうのだろ」
「違う。お嬢様だって、サボる時はサボるの」
むくれると、意外そうな顔をして、彼は1歩こちらへ近づいた。
その身体がわずかに動く度に、サラサラした髪が揺れて、隙間から覗く耳の際に3つ、シンプルなデザインのピアスが見える。
自分も、こんな高校に通わなければ、彼のように、大胆に校則を破れたかもしれない。
その耳元に、密かに心を奪われていた。
そっと、俯いて自分の格好を観察する。
校則に従って髪をまとめ、スカートも膝まである。