ちぐはぐな心音
「君、ピアス穴あるんでしょ」
彼はじぃっと私を見て、ボソッと言った。
反射でバッと耳元を押さえる。
派手だった時のなごりで、今でも右耳に2つ、小さい穴があいているのだ。
でも、髪に隠れて彼からは見えなかったはずなのに。
「なんで、わかった?」
耳を押さえる手に力がこもる。
私のそんな挙動に、彼はまた笑った。
今度は声を挙げて。
「え、推測だよ。もし、本物のサボりなら、ちょっとは身体加工とか、てぇ出してるかもって。」
「でも、普通の人でも、穴開けてる人いるのに…」
「じゃあ、君は優等生で、これから社長出勤で、学校に行きたいって、そういうことでいいの?」
私ははっとして首を振った。
すると、彼が意地悪そうな顔をしてきたので、自分の心を見透かされたようで苛立った。
「違う。やだ」
駄々をこねる子どものような声が出ていた。
理由もなく、泣きたくなる。
そして、それを待っていたかのように声が重なってきた。
「じゃあ、俺と遊ばない?」
「えっ!?」
手を引かれた。強く。
突然のことで、転んでしまいそうになるけれど、こらえて足を踏み出した。
すると、手のひらを優しく包み込まれて、心も一緒に抱きしめられたような、そんな気持ちになった。
二人で坂道を駆け下りていく。
私の制服も、彼と同じように、春風をはらんで舞ってゆく。
手は繋がれたまま。
不快な感じはなく、むしろずっと繋いで走っていたいとさえ思った。
そっと隣を見る。
走る彼の横顔は、いつの間にかまた、キラキラ輝き始めていた。