ちぐはぐな心音
count2
夜の街の、脚光と堕落。
片手にはピンクのテディ・ベアのぬいぐるみ。
耳には大振りのピアス。
紺のネクタイの代わりに大きなリボン。
ちょっと前までいた、くたびれた優等生はもういない。
「夕季はゲーセン歴長いんだ?」
「まぁ、友達と、たまに来るけど」
見知らぬ学生…夕季に、遊びに誘われて、ゲームセンターにやって来ると、心のどこかに残っていた「優等生ヅラ」は、いつの間にか吹き飛んでいた。
着いて早々、制服ショップに飛び込み、好きなデザインのリボンとスカートを選んだ。
スカートは、裾が長いおろしたてを、短く切ってもらった。
「本当にいいんですか?…本当に?」
店員さんは、ハサミを手にしばらく戸惑っていたけれど…。
そのノリで、メイクショップとネイルサロンにも寄って、思い切り良すぎだと笑われるほど派手にしてもらった。
1通り終わると、ローファーの足元だけ浮いて見えたので、サンダルを買った。
高級店の会計に出す時、お金が足りるか心配していたら、夕季は何も言わずに貸してくれた。
「ごめんね」
「マミが変身してくの見るの、楽しいから別にいいよ」
にっこり笑って言ってくれたその一言で、完全に落っこちる。
くそぅ、ズルイ。
財布を持ったまま固まってしまった。
私の変身の一部始終を見ながら、ずっと1人、けたけた笑ってたくせに、こんなときだけ妙に紳士だった。