桜吹雪が舞う頃に
*
春になった。高校をやっと卒業できた。やっとだよ。
岳と同じ大学に入れた。でも、学部が違う。
心配だなー。掲示板に書かれていた内容、どう見てもモテてたし。あの無愛想な態度で女子を振ったせいで掲示板の書き込みはヒートアップしてたけど、それでもまだ告白されてたし。あーもー心配だな。
なのに岳は突然あいつの話題を出して来た。確かに岳と出会ってからはじめての春だ。今年もあの時と同じように寒くて、桜はチラホラやっと咲き始めた。そう、思い出しはするけど、あんなに、今あいつに会ったらどうするとか聞いて来なくても。もう奴は過去なんだから。
「あっ! キレイ」
今日は暖かく桜が一気に咲き誇っている。大学内の桜並木に風が吹いた。桜吹雪。フッと笑ってしまう。あの日と同じ。
「う、嘘。」
思わず声が出る。夢? 幻? でも、成長してる。もう中学生の彼ではない。そう、同い年の彼だ。
「よ! 若菜、久しぶり!」
「涼」
あり得ない。あの去り方でこの出現。しかも、
「なんでここにいるのよ!!」
怒るよ。怒っていいよね。
「ああ、しばらくまた日本でテニスする事になって」
……
「お父さんが?」
「ああ、親父にまた呼ばれて」
何なのよこの親子!
「若菜、怒ってる?」
何か丸くなったね。涼。当たり前かもうあれから何年経つんだろう。
「怒ってる。何しに来たのよ。同じ大学って。私がいるって知ってたんでしょ?」
絶対直人に聞いてるはずだ。こんな偶然あるわけない。
「だから、テニスだって。大学は、俺頭もいいから」
はいはい。頭いいし、テニスもできるよ。
「わかった。じゃあ」
もういい。全く話にならない。こいつは昔から!
「待ってよ、若菜。前はごめん。俺もどうしたらいいかわかんなくて、若菜を傷つけた。佐々木先輩に言われて連絡やめたんだ。振り回して悪かった」
本当に丸くなったなー。涼。それともわざと無愛想だったのかな。いずれはアメリカに戻るってわかっていたから、周りに溶け込まなかった。私の想いも気づかないフリしてたの?
「佐々木先輩じゃないよ。加賀野先輩」
「え?」
「聞いてない? 直人に。兄妹になったの。卒業してすぐに」
「あ、や、癖で」
やっぱり連絡とってるな。直人と。
「昔の事は……怒ってるけど、もういいよ。もう昔の事だから」
あ! 岳、直人から聞いてたのか。涼が日本のこの大学に来る事を、だからしきりに私の気持ち聞いてきてたんだ。
「本当? よかったー。あのさ、……」
「じゃあ、聞いてるでしょ? 私、彼氏いるから。テニスが恋人の人はテニス仲間と仲良くして! 直人がいるでしょ? 他にも」
「えー! 若菜、冷たいなあ」
ああ、もう丸くなりすぎて、性格違いすぎ。
「冷たくない。だいたいなんで私に絡むのよ!」
反省したなら反省した態度しなさい!
「え? 若菜が好きだから」
「は?」
「だから、ずっと若菜が好きだったんだけど」
はあー? 遅い! 遅すぎる! こいつはいったいなんなのよ!
「遅い。今さら言われても困ります」
「ダメ?」
どこに可能性を見たのよ! バカ。
「ダメ。彼氏いるってば」
「俺に似てるとか?」
何の話よ。
「似てない! テニスもしてない!」
「若菜、冷たいなあ」
そりゃあそうなるよ。もう! わかってるのかな?
「冷たくない。好きじゃない人にはこうなの!」
嘘、怒ってる。今さらばっかりだから。あの時どれだけ涼を想っただろう。涼が去った後、そして事件の時もその後も。
涼が去って私は涼のいない学校に行けなくなりご飯も満足に食べれなかった。私を支えてくれたのは直人だった。毎日何だかんだとおかゆやヨーグルトやアイスを口の中に入れて食べさせてくれた。事件の後もいつも心配してくれた。
そしてその後は岳だった。岳の無骨な愛し方は返って気持ちが楽になる。上辺や嘘や取り繕いなんか一つもないとわかるから。
「若菜」
「捨て犬みたいにならない。昔の涼はどこよ? 世の中全部睨んでた!」
「いや、あれは敵を作るなあと反省してたんだけど」
「あれでいいのよ。涼は。生意気ばっかり吐いて敵作ってた」
「俺って……そんなだった?」
何かあった? もう!
「そうだった。あ、だからって好きにはなんないからね。じゃあね」
今度は何とか逃げられた。
想像していたよりも……ううん。やっぱり過去の涼が好きだったんだ。あの頃の私があの頃の涼を。
「岳!」
「お、ご飯にしよっか」
「うん」
「ねえ。知ってたんでしょ?」
「え? 何を?」
相変わらず読めない奴。
「アイツ、涼がくること」
「あ、ああ」
「名前言ってないし、直人から?」
「あ、昔直人が言ってたの思い出して、すっごい一年が転入してきていきなりレギュラーだって、話をな。その時に名前聞いてたんだけど」
「ずっと覚えてたの?」
いくらなんでもそれはないだろう。
「全米ジュニア無敗記録持ってる日本人選手はそういないだろう?」
「ああ、そこか」
「なんで隠してたの?」
「相手を見られるのが嫌だったの。普通嫌でしょ?」
比べて欲しくなかった。涼と岳は別の人間なんだから。
「似てるから?」
「違う。似てない」
「世に中全部睨んでたんだろ? あいつも俺も」
うう、そうだけど。
「岳はそんなこと気にしないの。早く食べに行こう! 席なくなるよ!」
春になった。高校をやっと卒業できた。やっとだよ。
岳と同じ大学に入れた。でも、学部が違う。
心配だなー。掲示板に書かれていた内容、どう見てもモテてたし。あの無愛想な態度で女子を振ったせいで掲示板の書き込みはヒートアップしてたけど、それでもまだ告白されてたし。あーもー心配だな。
なのに岳は突然あいつの話題を出して来た。確かに岳と出会ってからはじめての春だ。今年もあの時と同じように寒くて、桜はチラホラやっと咲き始めた。そう、思い出しはするけど、あんなに、今あいつに会ったらどうするとか聞いて来なくても。もう奴は過去なんだから。
「あっ! キレイ」
今日は暖かく桜が一気に咲き誇っている。大学内の桜並木に風が吹いた。桜吹雪。フッと笑ってしまう。あの日と同じ。
「う、嘘。」
思わず声が出る。夢? 幻? でも、成長してる。もう中学生の彼ではない。そう、同い年の彼だ。
「よ! 若菜、久しぶり!」
「涼」
あり得ない。あの去り方でこの出現。しかも、
「なんでここにいるのよ!!」
怒るよ。怒っていいよね。
「ああ、しばらくまた日本でテニスする事になって」
……
「お父さんが?」
「ああ、親父にまた呼ばれて」
何なのよこの親子!
「若菜、怒ってる?」
何か丸くなったね。涼。当たり前かもうあれから何年経つんだろう。
「怒ってる。何しに来たのよ。同じ大学って。私がいるって知ってたんでしょ?」
絶対直人に聞いてるはずだ。こんな偶然あるわけない。
「だから、テニスだって。大学は、俺頭もいいから」
はいはい。頭いいし、テニスもできるよ。
「わかった。じゃあ」
もういい。全く話にならない。こいつは昔から!
「待ってよ、若菜。前はごめん。俺もどうしたらいいかわかんなくて、若菜を傷つけた。佐々木先輩に言われて連絡やめたんだ。振り回して悪かった」
本当に丸くなったなー。涼。それともわざと無愛想だったのかな。いずれはアメリカに戻るってわかっていたから、周りに溶け込まなかった。私の想いも気づかないフリしてたの?
「佐々木先輩じゃないよ。加賀野先輩」
「え?」
「聞いてない? 直人に。兄妹になったの。卒業してすぐに」
「あ、や、癖で」
やっぱり連絡とってるな。直人と。
「昔の事は……怒ってるけど、もういいよ。もう昔の事だから」
あ! 岳、直人から聞いてたのか。涼が日本のこの大学に来る事を、だからしきりに私の気持ち聞いてきてたんだ。
「本当? よかったー。あのさ、……」
「じゃあ、聞いてるでしょ? 私、彼氏いるから。テニスが恋人の人はテニス仲間と仲良くして! 直人がいるでしょ? 他にも」
「えー! 若菜、冷たいなあ」
ああ、もう丸くなりすぎて、性格違いすぎ。
「冷たくない。だいたいなんで私に絡むのよ!」
反省したなら反省した態度しなさい!
「え? 若菜が好きだから」
「は?」
「だから、ずっと若菜が好きだったんだけど」
はあー? 遅い! 遅すぎる! こいつはいったいなんなのよ!
「遅い。今さら言われても困ります」
「ダメ?」
どこに可能性を見たのよ! バカ。
「ダメ。彼氏いるってば」
「俺に似てるとか?」
何の話よ。
「似てない! テニスもしてない!」
「若菜、冷たいなあ」
そりゃあそうなるよ。もう! わかってるのかな?
「冷たくない。好きじゃない人にはこうなの!」
嘘、怒ってる。今さらばっかりだから。あの時どれだけ涼を想っただろう。涼が去った後、そして事件の時もその後も。
涼が去って私は涼のいない学校に行けなくなりご飯も満足に食べれなかった。私を支えてくれたのは直人だった。毎日何だかんだとおかゆやヨーグルトやアイスを口の中に入れて食べさせてくれた。事件の後もいつも心配してくれた。
そしてその後は岳だった。岳の無骨な愛し方は返って気持ちが楽になる。上辺や嘘や取り繕いなんか一つもないとわかるから。
「若菜」
「捨て犬みたいにならない。昔の涼はどこよ? 世の中全部睨んでた!」
「いや、あれは敵を作るなあと反省してたんだけど」
「あれでいいのよ。涼は。生意気ばっかり吐いて敵作ってた」
「俺って……そんなだった?」
何かあった? もう!
「そうだった。あ、だからって好きにはなんないからね。じゃあね」
今度は何とか逃げられた。
想像していたよりも……ううん。やっぱり過去の涼が好きだったんだ。あの頃の私があの頃の涼を。
「岳!」
「お、ご飯にしよっか」
「うん」
「ねえ。知ってたんでしょ?」
「え? 何を?」
相変わらず読めない奴。
「アイツ、涼がくること」
「あ、ああ」
「名前言ってないし、直人から?」
「あ、昔直人が言ってたの思い出して、すっごい一年が転入してきていきなりレギュラーだって、話をな。その時に名前聞いてたんだけど」
「ずっと覚えてたの?」
いくらなんでもそれはないだろう。
「全米ジュニア無敗記録持ってる日本人選手はそういないだろう?」
「ああ、そこか」
「なんで隠してたの?」
「相手を見られるのが嫌だったの。普通嫌でしょ?」
比べて欲しくなかった。涼と岳は別の人間なんだから。
「似てるから?」
「違う。似てない」
「世に中全部睨んでたんだろ? あいつも俺も」
うう、そうだけど。
「岳はそんなこと気にしないの。早く食べに行こう! 席なくなるよ!」