桜吹雪が舞う頃に
 おお! 平和な世界。まあ、あえて誰も話しかけてこないだけだけど、いいねえ、やっぱりこういろいろ言われたりしないの。
 屋上から外を見下ろす。

 ガサガサって音がして振り向く。

「うわ! 加賀野!」

 俺は慌てて靴箱にあった手紙を見て確認する。

『九条君へ
  お話があります。お昼休み屋上に来てください』

「何それ?」

 加賀野が手紙を覗き込む。そして、笑う。

「ああ、それ私じゃない。違う。違うよ」

 だよな。そして、そこにあるベンチに座り、袋を開き出した。なんだよ、お昼ご飯かよ。

「ねえ! 買いすぎたみたい、いらない?」

 そういや腹減った。弁当は学校にくる前に食べてしまった。いつもは昼には帰ってしまうんで、昼のことは考えてなかった。
 加賀野の横に座り袋を覗く。

「おい、あきらかに買いすぎだろ?」
「だって、迷ってたら、どんどん買われていくんだもん」
「んだよそれ?」
「何よ、食べるの? 食べないの?」

 加賀野は袋を閉じようとした。

「あ! うん。いただきます」

 加賀野は笑った。皮肉混じりじゃない本当の加賀野の笑顔。

「なにがいい?」

 このパンってもしかして俺の為じゃあ……なんて考えてたら、

「九条君!」

 って後ろで声がする。

「多分手紙の子だと思うけど? いいの?」

 俺は振り返る……他のクラスの女子かな?

「あ、あの九条君! あの、その……ずっと好きだったんだけど……その子と……付き合ってるの?」

 その子って加賀野の事だよな。

「ああ、そう」
「そ、そうなんだ。あの、だったらいいの。うん。いいの。じゃあ」

 彼女はその場を走り去った。それを見て内山を思い出した。三限は結局来なくて、泣きはらした内山が次の休み時間に現れて
「帰る」
 と一言いって去ってたのを思い出した。
 複雑だな。好意がそんな形で出てくるなんて。あの山盛り画鋲はあいつだったんだと。

「ねえ。私いつから九条君と付き合ってるの?」
「さあ」

 焼きそばパンをちゃっかり加賀野の袋から取って食べ始める。
 加賀野は俺にカフェオレを差し出す。加賀野のもある。自惚れじゃなく本当に俺の分を買ってるじゃないか。

「さあ、って!」
「何で昨日と今日、俺に絡んで来た!?」
「ああ、ええと偶然?」
「じゃないだろ?」

 なんだよ偶然って。

「ああと、うーん。この学校に来たのはある意味偶然で、同じクラスになったのは本当に偶然、昨日の九条君があいつら絡まれたというか絡んだのも偶然だし。ほら、偶然っぽいでしょ?」
「っぽいってなんだよ! ちゃんと話せ!」
「ああ、うーん。じゃあ、帰り道でいい? 話長くなるから」

 加賀野の偶然じゃない話をちゃんと話させるのは今は無理みたいだな。

「うーん。これはいまいち。あげる」
「お、お前勝手だな」
「いいじゃない、私のパンなんだから」
「なあ。気づいてる?」

 加賀野と俺だけしか屋上にはいないが、小声で声かける。

「うん。何してるんだろね」

 加賀野は全く気にしてない。きっとさっきの女子が言いふらして回ったんだろう。その事実を確かめに来たみたいだ。クラスの男子の群れが。三年生の秋だ。女子で見たことないのと一緒ならクラスの奴らなら気づくだろう。さっきの件もあるだろうしな。

「お前って見えてるような見えてないような奴だな」
「うん? 何それ? あ、これは美味しいなあ」
「食い気かよ!」
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