桜吹雪が舞う頃に
 ***

 携帯を眺めて考える。直人もいたよな。もちろん加賀野の家にである。加賀野が出てきてすぐに玄関に置いてある直人の靴に気づいた。聞きたい。なんで、直人がいたんだあ! あー! もう。イライラする。
 今までストレス発散は夜に街に出かけてはケンカを売ってはケンカすることだった。が、加賀野に指摘されて以来、まあ、行く理由もないし、行っていない。
 あいつが俺にかまったのは母親からの依頼だ……なのになんであんな態度なんだろう。くそー! 直人に電話したいが加賀野といると考えるとできない。俺いつからこんなんなったんだよ。



 朝、加賀野を迎えに行く。

「お、はよう!」

 加賀野、元気過ぎて逆になんかあるなと感じる。

「九条君?」
「おはよう。なんかあったのか?」
「あー、うんと。それが、佐々木さんにね、迎えに来てもらって、まあ話をしてもらったのよ」

 加賀野はとても言いにくそうに言ってる。それで直人がいたんだな。逆に俺はホッとする。

「で?」

 言いにくそうな加賀野はなかなか先を口にしないので、先をふる。

「あの、彼女も彼女の保護者も捕まらないから、一旦一緒に帰ったんだけど、また学校から連絡きて今度は佐々木さんだけに行ってもらったの。そしたら、あの」

 その時だな俺が加賀野の家に行ったのって。ていうか、すごい言いにくそうにだな。

「で?」

 また先を促す。いったい何があったんだ?

「うん。なんか弁護士が来たってすごい話が荒れたようで結局彼女が自主退学するって言い張ってたって。だけど、学校側は停学処分だって」

 ああ、あいつのキレてる様子が目に浮かぶ。大人しそうな仮面の下にすごいのかくしてるよな。でも、加賀野の本意じゃないな。だから言いにくそうになんだ。

「加賀野はどの程度だと?」
「停学」
「まあ、それ以上だとは思うけどな」
「え?」

 あいつはやり過ぎだ。が、退学ってほどでもない。停学しか手がないんだよな。

「退学と停学の間なんてないもんな」
「うん。そうだね。先に一人で帰ったから、時間たてば、気持ちも変わるだろうって事になったみたい」

 あいつまた帰ったのかよ。

「そっか」




「おはよう」

 の声が飛び交う教室に着いた。俺と加賀野が教室に入ると声がなくなる。

「あ、あの加賀野さん。内山さんって?」

 そこの女子、ずかずか言い過ぎだって。昨日今日だぞ? だからこいつらは!

「あー停学処分中」
「あなたがやったの?」

 だから、ダイレクトに聞きすぎだって。

「私にそんな権限ないよ、学校がね」
「でも、加賀野さんが言ったんだよね?」

 いい加減追求し過ぎだと思って割って入ろうとしたら加賀野は頷いてきた。大丈夫じゃないだろ?

「そうよ。だって、あなたがその立場なら? 言わない?」
「えっ? ああ、うん。そうね、言うわ。あれは酷いもの」
「私も何でも言う訳じゃない。ただあれは我慢出来なかったから。それに彼女は自分で退学するって言ってるのを、停学処分になってる」
「自分から?」

 加賀野はちょっと困った顔をしている。

「自分から退学するって言って立ち去ったみたい」
「またかよー」

 って声が聞こえる。だろうな。

「私は彼女が来る前にちょっと無理だったんで帰ったんだけどね」
「あ、そうだよね。ごめん。いろいろ聞いて」

 やっと気づいたのかよ。加賀野は平気なフリしてるだけって、昨日の顔色見て気づけよ。
 まあ、おかげで教室の空気が変わった。



「なあ、加賀野。直人とはいつから知り合いなんだよな?」

 帰り道思い切って聞いてみる。

「ああ、中学校一緒だし、高校も一緒だったよ。でも、佐々木さんと知り合ったのが中二だったからね。先輩にいるのは知ってたんどね」
「え? そんな前なのか?」
「うん。紹介しといていつまでも結婚に踏み切らないのよ。お父さん、そのうち紫苑さんに逃げられるよ」
「ええ! 結婚?」
「直人から聞いてない?」

 聞いてない。いや、結婚も何も加賀野の事も聞いてないんだぞ。あいつ。

「ああ、聞いてないよ」
「ふーん。まあ、だから今回の件実行出来たんだけどね」

 あ、そうだった。俺って加賀野に……。

「あ! ねえ!」
「何?」
「あの日のあの事件逮捕されてちゃんと立件されてるからって」
「ふーん。って俺何にもしてないし」

 ただ巻き込まれただけだし。

「まあ、そうなんだけど。あれ一人だったらどうするつもりだったの? 場所だって、選んでなかったでしょ? たまたまバカな連中で助かったけど」
「うーん。何も、何も考えてなかった。ただただケンカしたかっただけだな」
「よくそれで今まで何もなかったよ」

 加賀野は眉を寄せている。

「まあ、俺強いし」
「でも、あの人数じゃ場所が違ってたら無理だよ」
「まあな。でも、来たもんはしょうがないって思ったんだけど。まさかお前がああなるとはな」

 はじめて会った日の加賀野を思い出す。小柄で細い彼女がまさかあそこまで強いなんて。

「どこまで投げてたの?」

 ん。そうだな。投げてたな。毎日を。クラスの奴らのする事の意味がわからなかったし、わかりたくもなかった。バカな奴らに付き合う気もなかった。ただ毎日を過ごせばよかった。卒業までを。

「まあ、いいだろ。もう終わったんだし」

 宮本は小声で「ごめん」とすれ違いざまに言ってきた。あれから宮本は毎日机にかじりつくように勉強している。まあ、あれだけみんなに反感買ったんだ、そうする以外にあの場所に居場所はないだろう。もともとそうだった気もするが。

「すっごい楽天主義なの?」

 なぜか加賀野は怒ってる。

「あ、いや、そうじゃないけど。なんでお前が怒る訳?」
「え? だって……その何考えてるかわかんない顔で知らんフリするのが見てて腹立たしいの!」

 何気に悪口言われた気がするんだけど。

「お前な! あと、あ」

 気づけば加賀野の家だ。

「じゃあ……」

 ためらいがちに加賀野が俺の顔を伺いながら言う。

「寄ってく?」
「ええ! ああ、いいの?」

 この前襲われたばかりなのに。いいのか?

「うん。どうぞ。」

 と招かれる。
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