【Berry's Cafe版】やっぱり君にはかなわない〜花と光と奏でSS
『……それがよく覚えてないんです』
「覚えてない?初キスを?」
『はい』
「……小さい頃ってこと?」
『でしょうか……』
「ならノーカウント?」
『ですね。七聖くんもそう言ってましたし』
「…………」


"は!?七聖!?"


『あ……』

“言ってはいけなかったんだ”と紫音の漏らした声がそう言っていて、

「七聖って何!?」

俺はそれが“小さい頃のこと”ならと思ったのに、その名前が出たことで嫉妬が急激に湧き起こった。

『いえ……その…』
「七聖に口止めされた?言って、紫音」
『……………』
「俺には言えない?」
『そういうわけでは……』
「じゃあ言って」

俺が嫉妬しているのが明からさまにわかって身を小さくしていく紫音だったけど、

『幼少時に通っていた保育園での合同お遊戯会で“白雪姫”の劇をしたんです。王子様役が七聖くんで……』
「紫音がお姫様?」
『はい。………その眠っていた私に七聖くんがキスを……』
「唇に?保育園で?」
『本当は“額”にするはずだったって……』


"七聖……"


「チッ…」

胸の内でするはずだった舌打ちが小さいながらも音に出てしまった。

『………ごめんなさい』

シュンとした顔でますます身を小さくした紫音が俺を上目づかいに見てくるから、

「覚えてないんだろ?ならノーカウント。
たとえ思い出したとしても、それを忘れるぐらい俺が上書きするから」

俺はそう言ってもう一度紫音へ口づけた。
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