【Berry's Cafe版】やっぱり君にはかなわない〜花と光と奏でSS
その声が、私のすぐ後ろから聞こえてきたことが、私を叩(はた)くはずだったその手の動きを止めた。
まるで図ったかのようなタイミングで現れた煌暉くんに、"どうしてここに?"なんて思った私はかなりマヌケだと思う。
それは考えるまでもなく、さっきまで一緒にいたのに、“ちょっとここで待ってて”と言った煌暉くんが離れてた間に、その待っているはずの場所に私がいなかったのだから、私を探して"来てくれた"と思うのが普通だろう。
だからそれだけこの状況に私自身が理不尽さを感じていて、前者のような思いを錯覚させたのかもしれない。
「その手、何?」
私の後ろから隣へと移動してきた煌暉くんから発せられた声。
それは今まで私が聞いたことのない冷たい音で、その横顔に浮かぶ表情も初めて見るものだった。
「煌暉……」
「…………その呼び方やめてくれる?」
「え?」
「それと、俺の彼女に何かする気だった?」
煌暉くんはそこまで言うと、目の前の女(ヒト)から私へと視線を移して、
「大丈夫か?」
と言いながら私の顔を覗き込んでくる。
だけどそこにあった表情はいつも見ているもので、声だっていつもと何ら変わりなく、私がよく知っている煌暉くんのものだった。
だからその切り換えに私は呆然としてしまって、
『煌暉くん……』
と無意識につぶやいていた。
「ん?大丈夫か?」
だからか、短くまた私の様子を確認してくる言葉が繰り返された。
『大丈夫です』
「ん。良かった」
今度はちゃんとそう返答した私に煌暉くんの安心したような笑みが向けられたけど……
その直後、視線を前方に戻した途端、またその表情が変わって……
そのことに、やっぱり私はまた呆然としてしまった。
"ちゃんと……煌暉くんだよね…?"
二度めのマヌケな思考まで浮かぶほどに……