【Berry's Cafe版】やっぱり君にはかなわない〜花と光と奏でSS

自分の名前を呼ぶその声に反応した紫音が、手元に落としていた視線を上げて、そのまま辺りを確認している。その姿が俺の瞳に映っていて、その俺の瞳と紫音の瞳が交わった。

俺の姿をとらえた紫音は少し驚いたあと、ふわっと微笑んだ。

それだけでまた俺の心が動き、跳ね上がった想い。


「おかえり」


やっと会えた喜びと、恋人になった存在を実感したいとはやる気持ちに抑えがきかなくて、公衆の面前にもかかわらず、その身を俺は抱きしめた。


『こ…うきくん、人前ですよ。それに、どうしてここに？』


戸惑う紫音に、


「んーーーー…待ちくたびれすぎて瀕死だったから。すげぇ会いたかった」


俺は甘さ全開で囁いた。


そんな俺達を見て、周りがキョロキョロと何かを探しているような動きをしている。


「何かの撮影？」

「カメラどこだ？」

「映画のワンシーンみたい」


ホォ………と見とれている姿と囁かれる声がいくつもあって、テレビか何かの収録とでも思っているのか、スマホを掲げて、俺達をそのカメラに納めようとしているのが俺の視界に入ってきた。


"ヤバっ"


咄嗟に紫音を死角へと入れる。


「紫音ごめん」
『何がですか？』
「写真撮られたかも」
『……あ。ごめんなさい。煌暉くんはモデルさんでした』

俺の胸の中にいた紫音が、申し訳なさそうにそう言って俺を見上げてくる。

「違うし……俺じゃねぇ」
『？』

俺の言ったことの意味がわからないのか、そのままの格好で首を傾げてくる。
それを見た俺の胸がグッと詰まり、


"それダメだし……"


それから堪えるために、俺は紫音からスッと視線をそらした。