虚空を眺めて
日常
「では、16ページを開いて」

気だるい暑さの中、斉藤先生の声が響く。
今は一時間目の国語の真っ最中なのだ。

「『私は旅先で、道に迷って佇む女性に声をかけた。』、『私は旅先で道に迷って、佇む女性に声をかけた』『、』を打つ場所によって意味が変わるんですね―――」

斉藤先生はまるで念仏のように唱えながら、黒板に文章を書いて行き、細かく説明して行く。

―――その努力も無駄だということに気付かず。
クラスメイトのほとんどが、机に突っ伏していた。

「暑い・・・暑い・・・暑い・・・」

無理もないとは思うが、隣の席の女子がうるさかった。
ちらりと、月彦は視線を彼女へと向ける。

「うるせぇよ」

五郎の口調を真似て言う月彦。

「は? 暑いから、暑いって言ってんのよ。 何、アンタ、うざいよ。五郎君の真似? 似てないからやめて方がいいわよ?」

女子は月彦の言葉を聴いたとたん、突っ伏していた顔をコチラに向け。
辛口な事を言ってのける。
そんな彼女は、遠藤優子という。
『優』と言う字なのに、性格は真逆だ。

「うるせぇ」

その時。
周りの連中と同じように、机に突っ伏していた五郎が顔を上げ言う
やはり、不機嫌そうな顔はいつも通りだ。

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