オオカミ御曹司に捕獲されました
彼女の笑顔は無邪気で、それでいて慈愛に満ちていて……。

それまでは彼女のことは元同級生で俺にとって害にならない存在って程度にしか思っていなかった。

身長は百五十ちょっと、髪は黒く肩まであるボブで、いつもメガネをかけていてもの静かで……。

俺が知ってる彼女の事と言えばその程度だ。

近くにいても印象に残らない空気のような存在だったと思う。

今になってよくよく考えると、彼女は俺にとって貴重な存在だったのかもしれない。

杉本商事の社長の息子ってだけで、昔から俺に近づく女は腐るほどいる。

中にはしつこくつきまとう女もいて、そういう女は冷たくあしらっていた。

はっきり言ってうざいし、邪魔だったんだ。

だが、彼女はそんな女達とは違った。

高校時代に一緒にクラス委員をやっても俺には全く興味がないのか、打ち解けて話すこともなかったし、俺が笑顔で挨拶しても怯えた目で小さく挨拶を返した。

社会人になってもそれは変わらず、仕事以外で彼女と関わることはなかったと思う。
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