国王陛下の独占愛

 国王がムスカの砦へ出向く日を一週間後と決める合議が終わりに
 近づいたところで、領相のザクロスが口をひらいた。


   「実は、妙な噂を耳にしましてな」

   「妙な噂?ああ、私も耳にしました」


 ザクロスの言葉を聞いた民相のヒュウルが、ニヤニヤ笑いを浮かべる。

 席を立とうと、目の前に広げていた書類をそろえていたセヴェリは
 手を止めて領相を見た。

 そんなセヴェリを見つめ返して、ザクロスは再び口をひらく。


   「陛下お抱えの薬師の娘が、陛下をたぶらかし、それで陛下は
    お后を選ばれないのだとか」

   「后選びを中断しているのは、隣国ダコスとの今の状態を
    考えてだ。」


 セヴェリがそういうと、ザクロスは神妙な顔をした。


   「戦があるかもしれないという不安定な今だからこそ、
    后が決まり、より王室が安定することが大切なのでは
    ありませんかな」

   「......」

   「妙な噂を払拭するためのも、その薬師の娘を遠ざけられること
    をおすすめします」


 セヴェリの顔がこわばったのを見て、ザクロスは、口許に笑みを
 うかべた。


   「このままでは、批判は陛下にもおよびましょう。
    娘を城から出し、陛下が何事もないのだと示されれば
    噂はすぐにおさまるかと思います」
< 101 / 125 >

この作品をシェア

pagetop