国王陛下の独占愛

 敵兵は着いたばかりの馬車から降りる人物を狙ったのだと
 その騎兵はいった。

 もちろん敵が狙ったのは、国王セヴェリだ。

 だが、セヴェリのかわりに馬車に乗っていたのはニクラスだった。


   「ニクラス様が矢を受けて倒れられ、それが合図のように
    敵兵が砦の中へ」

   「ニクラスはどこだ」

   「こちらです」


 騎兵の一人に案内されて、急ぎ足で歩きながら
 セヴェリは唇をかんだ。

 ニクラスが自分の身代わりに......なんということだ。


 砦の一階の奥の部屋にニクラスは寝かされていた。

 衛生兵がニクラスの胸の傷に包帯を巻いているが、出血はひどく
 顔色は悪い。

 だが、セヴェリが近づくと、ニクラスはうっすらと目を開けた。


   「兄上......」

   「ニクラス、すまない、私のせいで」


 セヴェリの言葉にニクラスはかすかに首をふる。


   「兄上でなくて......よかった、兄上は......」

   「もう、しゃべるな」


 そう言って、セヴェリはニクラスの手を取る。

 セヴェリを安心させるために、ニクラスは微笑もうとしたが駄目だった。

 セヴェリの手に握られた手の力がだんだん弱くなり、
 ニクラスは静かに息をひきとった。
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