国王陛下の独占愛
ろうそくを立てた燭台が、ベッドのそばのテーブルと部屋の隅に
置かれた。
火はついていない。
クルトの背に、枕やクッションをあてがい、
上半身を起こしていられるようにする。
そして、静かにソリはベッドのそばに立った。
ソリと同じ、薄い藤色の瞳でクルトはテーブルの上の燭台の
ろうそくを見る。
ただそれだけのことなのに、しばらくするとろうそくに火が灯った。
そして、部屋の隅のろうそくにも。
「ソリ......やってみなさい」
ろうそくを吹き消し、ソリはクルトがやったようにろうそくを見つめる。
時間はかかったが、テーブルの上のろうそくにポッと火が灯った。
だが、部屋の隅に置かれたものはだめだった。
「よい......気を高める時の......呼吸を忘れない......ようにしなさい」
「はい」
魔術もまた、小さい時からクルトに教わり続けていることだ。
だが、クルトはそのことを公にすることを好まなかった。
だからこのことは、ソリと祖父だけの秘密だ。
それに時代は、魔術を過去のものとしていた。
ネヴァド=ヴィラ王国は、近年、急速に工業を発展させるとともに
生活とともにあった魔術を忘れていった。
魔術は、今は、伝説の中のものだった。
60年程前、突然攻め入ってきた蛮国カスタロの侵攻を防いだのは
魔術を扱う一人の術師と一匹の獣だったというような。
ふーっと息を吐いて、クルトが深く枕に沈みこむ。
「少し......疲れた」
そう言って、クルトが目を閉じる。
ソリは祖父の身体をベッドに寝かせると、窓を閉め、部屋をでた。