国王陛下の独占愛
(5)
庭から摘み取られたバラの棘を取りながら、前国王の王妃アミラ妃は
侍女の言葉を聞いていた。
「陛下が、寝室に一人の若い娘を招き入れている、という
噂がございます」
「陛下が?」
今まで聞いたことのないような話にアミラ妃は驚いた。
驚いた拍子に、誤って指先を棘で刺したアミラ妃は、血が出た指先を
口に含むと、きゅっと眉をしかめた。
今まで国王セヴェリに、浮いた噂は一度もなかった。
だから安心していたのに、いったいどういうことか。
なんとも言えないざわざわした気持ちが広がっていく。
前国王妃アミラは、セヴェリに恋心を抱いていた。
彼女は前国王の妃で、セヴェリは前国王の息子。
だから二人は義母と義理の息子であるにもかかわらず、アミラは
セヴェリを一人の男として見ていた。
前国王とは随分年が離れていたし、王妃となって、第二王子ニクラスを
産み、しばらくたったころから、前国王は病気がちで覇気がなかった。
それにくらべ、王子だったセヴェリは若々しく、力に満ちていた。
もちろんアミラ妃は、自分の恋心のために、王妃の座を危うくする
ような馬鹿な真似はしない。
病気がちな夫に尽くすふりをしながら、秘かにセヴェリを思っていただけだ。
だが、夫である国王は亡くなり、セヴェリもまた王妃を迎えてはいない。
アミラ妃の想いは欲に変わった。
この3年間、アミラ妃がセヴェリの気を引く素振りをみせても、
当のセヴェリの態度が素っ気ないものだった。
だがそれは、他のどの女性に対してもそうで、アミラは安心もしていたのだ。
それが、若い娘を側に呼んでいるとは......。