国王陛下の独占愛
(5)

 庭から摘み取られたバラの棘を取りながら、前国王の王妃アミラ妃は
 侍女の言葉を聞いていた。


   「陛下が、寝室に一人の若い娘を招き入れている、という
    噂がございます」

   「陛下が?」


 今まで聞いたことのないような話にアミラ妃は驚いた。

 驚いた拍子に、誤って指先を棘で刺したアミラ妃は、血が出た指先を
 口に含むと、きゅっと眉をしかめた。

 今まで国王セヴェリに、浮いた噂は一度もなかった。

 だから安心していたのに、いったいどういうことか。

 なんとも言えないざわざわした気持ちが広がっていく。

 前国王妃アミラは、セヴェリに恋心を抱いていた。

 彼女は前国王の妃で、セヴェリは前国王の息子。

 だから二人は義母と義理の息子であるにもかかわらず、アミラは
 セヴェリを一人の男として見ていた。

 前国王とは随分年が離れていたし、王妃となって、第二王子ニクラスを
 産み、しばらくたったころから、前国王は病気がちで覇気がなかった。

 それにくらべ、王子だったセヴェリは若々しく、力に満ちていた。

 もちろんアミラ妃は、自分の恋心のために、王妃の座を危うくする
 ような馬鹿な真似はしない。

 病気がちな夫に尽くすふりをしながら、秘かにセヴェリを思っていただけだ。

 だが、夫である国王は亡くなり、セヴェリもまた王妃を迎えてはいない。

 アミラ妃の想いは欲に変わった。

 この3年間、アミラ妃がセヴェリの気を引く素振りをみせても、
 当のセヴェリの態度が素っ気ないものだった。

 だがそれは、他のどの女性に対してもそうで、アミラは安心もしていたのだ。

 それが、若い娘を側に呼んでいるとは......。
    
< 34 / 125 >

この作品をシェア

pagetop