国王陛下の独占愛
「私は子ども時代をこの城ではない、北の離宮で過ごした」
突然セヴェリが、空を仰ぎ見たまま話はじめた。
「母が亡くなってすぐ、私は4才だった。母を深く愛していた父は
母が亡くなったあと、母と同じ瞳の私を見ていられなくて、
私を北の離宮へ送ったんだ」
相変わらず、セヴェリは空を見ている。
「北の離宮はここみたいに窮屈ではなかったから、火傷や擦り傷を
こさえるようなことは、なんでもした。何年もそこで過ごして、
そのうち父は王妃を迎えて、弟ができた。父はニクラスを可愛がった
から、王位はニクラスが継げばいいと思っていたし、
周りもそう思っていた。
私は、忘れ去られた王子だったしな。
父が、あんなに早く亡くならなければ、私はずっと気ままに暮らせた」
傾けていた首をセヴェリはゆっくりと戻したが、
ソリの方を見ようとはしなかった。
ソリはそんなセヴェリの横顔をじっと見つめる。
王として望むものはなんでも手にできるように見えても、セヴェリの心は
まだ、傷を抱えた王子の時のままなのだとソリは思った。
ソリはなにか言いたかったが、何も言葉にすることができなかった。
代わりに、ソリは握られていない方の手で、ソリの手を掴んでいるセヴェリ
の手をそっと包んだ。
ピクリとセヴェリの指が動く。
だが、セヴェリもまた何も言わず、二人は無言のまま、長い時間、
お互いの手を握り、泉の側に座っていた。