国王陛下の独占愛

   「私は子ども時代をこの城ではない、北の離宮で過ごした」


 突然セヴェリが、空を仰ぎ見たまま話はじめた。


   「母が亡くなってすぐ、私は4才だった。母を深く愛していた父は
    母が亡くなったあと、母と同じ瞳の私を見ていられなくて、
    私を北の離宮へ送ったんだ」


 相変わらず、セヴェリは空を見ている。


   「北の離宮はここみたいに窮屈ではなかったから、火傷や擦り傷を
こさえるようなことは、なんでもした。何年もそこで過ごして、
    そのうち父は王妃を迎えて、弟ができた。父はニクラスを可愛がった
    から、王位はニクラスが継げばいいと思っていたし、
    周りもそう思っていた。
    私は、忘れ去られた王子だったしな。
    父が、あんなに早く亡くならなければ、私はずっと気ままに暮らせた」


 傾けていた首をセヴェリはゆっくりと戻したが、
 ソリの方を見ようとはしなかった。

 ソリはそんなセヴェリの横顔をじっと見つめる。

 王として望むものはなんでも手にできるように見えても、セヴェリの心は
 まだ、傷を抱えた王子の時のままなのだとソリは思った。

 ソリはなにか言いたかったが、何も言葉にすることができなかった。

 代わりに、ソリは握られていない方の手で、ソリの手を掴んでいるセヴェリ
 の手をそっと包んだ。

 ピクリとセヴェリの指が動く。

 だが、セヴェリもまた何も言わず、二人は無言のまま、長い時間、
 お互いの手を握り、泉の側に座っていた。
    
< 42 / 125 >

この作品をシェア

pagetop