国王陛下の独占愛

 王都の南端の盲の辻占い師は、せまい板張りの小屋の中に今日も
 うずくまるように座っていたが、二頭立の手入れの行き届いた
 (なぜなら、石畳の上を滑らかに回る車輪の音を聞いたから)
 馬車がこちらをめざしてくることを感じ取っていた。

 思った通り、馬車は小屋の前に止まり、底がすり減っていない
 上等な革靴をはいた人物が、馬車をおり、小屋の中に入ってくるのが
 わかった。
 多分貴族の誰かだろうと、占い師は思う。

 入ってきた人物からは、これ以上はないというほどの大きな野心が
 感じとれた。

 これほど大きな野心をもった貴族は一人しか思いつかない。

 盲の占い師はその人物が自分の前に座ったのを感じとり、目を閉じた
 顔を向けると言った。


   「これは、これは、ザクラス様、お久しぶりでございますな」


 そしてすぐにザクラスの手を取る。

 ザクラスの手の平の上を撫でたり、つまんだりしていた辻占い師は


   「なにか心配事でもおありですかな?」


 と問うた。


   「そうだ」


 とザクラスが答える。

 そしてザクラスは昨晩体験したことを占い師に語った。
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