Dragon's Dogma ~数多の伝説に埋もれる一片の物語~
「これは……覚者殿。つくづく縁があるようだ。」
「お前はッ!」
ああ、あいつ!嘗てカサディスで、地下墓地で見掛けたあいつ!『救済』の首魁にして、教会から異端とされる破壊の信奉者、エリシオン。長城砦の屋上にて、『救済』の幹部であろう二人と怪しげな儀式の真っ最中のようで、禍々しい紫色の光が三人の前に不気味な魔方陣を描いている。
「スケルトン兵を退いて、この砦を返せ!無駄な争いはしたくない。」
「そのような戯れを。」
エリシオンは声を上げ笑う。
「我らが徒に動かずとも、偉大なる破壊はこの地に、いずれは総ての世界にもたらされるは必定。
 ……なれど、畏れを、身の程を知らず、偉大なる竜に関わる覚者は不遜。
 先にもたらされし破壊を、かような壁にて封ぜようという小賢しさにも似たり。野放しにすれば竜の目覚めを……遅らせよう。見過ごせぬことよ。」
「こっちだって好きで竜と関わったんじゃないや!それより知っているのか?お前たちはその覚者であるカイに利用されているだけなんだぞ!」
「……道化は浮遊の民を操る術をもつ。されど、覚者とは別のものよ。我らこそ彼の者の力を特と利用せしめ、今、この時を迎えたのだ。」
 エリシオンは魔力で怪しく輝く短剣を前方に翳す。それを見たときの他の幹部の恍惚とした表情!申し訳ないけど、気持ち悪いとしか感じなかった。次の瞬間、彼らはエリシオンの手にある刃にその身を委ねたんだ。
「さて、戯れはもう終わり。浅はかなる城を破壊せんと用意した秘術にて、相手をいたそうぞ、覚者殿!」
 倒れ伏す二人。周りは鮮血に染まっていく。それが秘術の完成を意味していたのか、魔方陣より骸の手が何本も現れ、二人を引き摺り込む。エリシオンはそれを見届けると、短剣を手から溢し、満足げに砦の中へ消えていった。辺りには乾いた金属音だけが響く。追わなきゃ。頭の中でその言葉がぐるぐる回った。ただ、目の前でこれから起ころうとする"何か"を放っておくことはできなかったんだ。魔法の才に恵まれていない私でもビンビン感じるほどだから。そして、魔方陣から這い出てくる襤褸を纏った骸骨、古ぼけた王冠を戴く、そんな奴が二体も!あれは……信じたくはないけど、恐らくワイト。姉さんに聞いたことがある。強力な魔術を操る、太古の魔術師の成れの果て。奴らは完全に姿を表し、手の届かないぐらいの高さで宙に浮かび上がり、虚ろな眼窩で私を見下ろしている。……くっそぉ、『救済』の幹部だからって、人間しか想定してなかった。短剣と弓じゃ勝てる要素がまるでない。逃げるか?いや、逃げても負けても、私を信じて戦っている人たちを危機に陥れることになる。
 ……ワイトは覚者である私を狙っている。だから……。
 二体のワイトはゆっくりだが、確実に私に迫ってきていた。もうこれ以上考えている暇はない。やるしか!
 私は、私がこの場に入ってきた入り口を目指して走り出した。広い屋上ではどう足掻いても分が悪い。勝負は砦内だ。焦る気持ちを抑え、来た道を戻る。魔法は……来ない。狭い砦の中まで追ってくる。闇雲に魔法を使ってくるような連中なら、やり易かったんだけどね。あいつら、きっと私が止まった瞬間に狙い撃つ気だ。付かず離れずの距離を保っている。よし、それなら!
 私はステップを切って、サッと扉の壊れた横の部屋に飛び込んだ。数秒の後、手にした古びた錫杖に魔力を宿しながら、ワイトが部屋を覗く。でも、そこにあるのは無人の火薬庫。私はもういない。奥の崩れた壁の隙間から抜け出し、元来た通路、ワイトの背後にとっくに回り込んでいるよ。ここは、砦の兵士たちと別れた後、屋上を探してて見つけたんだ。そいでもって……。
「いっくぞー!」
火薬庫から持ち出した大きな横向きの樽を両手で思いっきり押して転がした。序でに蹴りも一発。勢いの付いた樽はゴロンゴロンと大きな音を立てて、回廊を転がり、ワイトに向かう。襤褸から覗く髑髏は魔杖を翳す。その先には、魔力の波動が宿っているのを見た。よしっ!軽い満足感を覚えながらも、素早く横道に飛び込み、両手の人差し指で耳を塞ぐ。
「ドガァァァァァァァン!!!!!」
身体を押すような振動と、耳を塞いでも聞こえるほどの爆発音。一瞬の後、粉塵が通路に押し寄せ、私の横を過ぎていった。満タンではなかったけど、それでもたんまり火薬の入った樽だ。計算通り、魔力で破壊しようとして、その衝撃で大爆発。きっとワイトも木端微塵になっているだろう。
 粉塵が収まりかけた頃、通路にひょいっと顔を出してみた。ん?まだ影が見える!まさか、まだ!?しかし、私の不安は杞憂に終わった。ワイトの影は朽ちた灰のようにバラバラとその場に散っていったんだ。ただ、影は間違いなく一つだった。もう一体は恐らくまだ残っている。早くそいつを倒して、エリシオンの所に行かなきゃね。

 再び場所は屋上。もう一体はここで私を待っていた。まったく、食えない連中だよ。仕方ない。手持ちの不利は承知の上でやるしかない!
 弓を構えて弧を描くように走る。時々、距離を詰めたり離したり。的を絞らせないのが魔法使いと戦うときの鉄則。ワイトの魔法は、火球も稲妻も私の影を焼くだけ。逆に、私の放つ矢は吸い込まれるように、その射つ全てが襤褸を貫く。でも、威力より携帯の利便を重視した小弓で、しかも相手は不死怪物、どれだけ効いているのか疑わしい。そんな私の考えを裏付けるように、ワイトは一切動きを止めずに私に向かい、魔法を放ち続ける。こっちの体力が尽きるのが先か、矢が尽きるのが先か……それって、どっちも私の負けじゃんか!
 矢筒を探る私の右手が少し形状の違う矢羽に触れる。これは……勝負処に取っておいた奥の手だけど、仕方ないよね。ここで負ける訳にはいかない。私は走りながら、続けざまに矢を射る。私をナメているのか、ワイトは避けもしない。だけど、最後に手にした一本の矢は、弓につがえるのと同時に白い魔力が暴れ出した。そして、真っ直ぐな軌跡を残して、避けることを放棄した髑髏の右の眼窩に突き刺さる。その瞬間、ワイトは爆発するように霧散して消え去ったんだ!あれは、フォーニバルさんから買い取った伝説の武器"会心の矢"。姉さんが持っていくべきだって教えてくれたものだ。
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