Dragon's Dogma ~数多の伝説に埋もれる一片の物語~
「くっそぉ!」
蒼い軌道を残し、私の魔導弓から無数の光弾が放たれる。……いや、実際たかだか10発だけど。
下水道に潜む巨大な毛むくじゃら。半島で見るヤツより一回り大きな人喰鬼の、ハンマーを振り下ろすような拳を避け、反撃。全弾命中したけど、あんまり効いてる感触がない。というか、あの筋肉ダルマに痛みを感じる神経なんてあるのかね?
あ、こっちを睨んだ。怒ってる?ワナワナ震えてる。これってヤバいかな。アイツ、とんでもない瞬発力だし。後退りしながら、横目で別の通路の方を確認する。えっと、姉さんは……あっちででっかい蜥蜴の群に囲まれてる。姉さんのことだから全然心配してないけど、流石に簡単には突破できないだろうな。……ん?目が合った?
「マチルダ様、品がありませんよ。」
「姉さんこそ、そんなこと気にしてる余裕は無さそうだけど?」
姉さんが微笑みながら私に声を掛けたから、私はわざと少しムキになって応えてみた。これでちょっと緊張が解ける。いつもこうして姉さんに助けられるんだ。
しかし、私の声に反応したのか、人喰鬼が水しぶきを上げながら恐ろしい勢いでこちらに向かってくる。に、逃げなきゃ!
幸い、身体は反応してくれた。バックステップを踏み、間合いを取る。最初の一撃、右の拳の大振りはかわせた!が、巨躯を回転させるように繰り出された逆の拳が伸びてくる。私の顔より大きな拳だ。あ、避けきれない!……と思ったとき、後退った左足が足場を踏み外した。思わず、体勢を崩し──下水に落ちた。臭っ!でも、おかげで巨大な塊は私の上を通り過ぎていく。私って、ちょくちょく恵まれてるね。
なんてことを考えてる間に逃げればよかったんだ。人喰鬼は両腕で倒れた私を掴む。え?何?そんな大きな口を開けて。歯並び悪いなぁ。乱杭歯ってヤツ?しかも息が下水並みに臭い。あ、私をかじるの?え、えー!!
次の瞬間、私は再び淀んだ水しぶきを跳ね上げることになった。だけど、まだ巨大な両腕は私の肩を絞めたままだ。
──見えなかった!残るのはキラキラと輝く光塵と、抜き身の大剣をかざした姉さんだけ。ちょうど顔は見えない。そして、姉さんは巨大な腕だけに絞められている私と、先が無くなった腕の付け根からどす黒い血を噴き出している人喰鬼の間に位置し、大剣をゆっくりと振りかぶる。
こうして見るのは初めてかも知れないけれど、私は知っていた。それは私が姉さんの武具を身に纏い、竜と化したサロモに放った渾身の一撃とまるで同じだったから。
──あれも姉さんの想いだったんだ。
十数秒の後、異臭の下水道には私たちの他に動くものはなかった。
「戦場において余裕などと考えたことはありません。次の戦いも慮った上で、常に最善を尽くすだけです。
ただ、マチルダ様がご成長されたことで、私自身も持てる力が存分に発揮できるのです。」
……剣を収めながら、涼しい顔して言うなぁ。
「最初に迷うことなく、エルダーオーガの前にお出になりましたよね。そして、気を引いている間に、大剣を振るう私に戦闘力の低いリザードマンを一掃させようというのは、素晴らしい判断だったと思います。こちらが二人である以上、敵の数を減らすのが最良の戦略です。」
「そんなに深く考えてた訳じゃないんだけど……ありがと。」
姉さんがにっこりと微笑んだ。なんだか照れくさいな。
下水道の先にもいつもの禍々しい鉄の扉があった。気を取り直し──臭いのがこの後、ちゃんと消えるかどうかは気が気でなかったけど、二人で扉をくぐったんだ。
蒼い軌道を残し、私の魔導弓から無数の光弾が放たれる。……いや、実際たかだか10発だけど。
下水道に潜む巨大な毛むくじゃら。半島で見るヤツより一回り大きな人喰鬼の、ハンマーを振り下ろすような拳を避け、反撃。全弾命中したけど、あんまり効いてる感触がない。というか、あの筋肉ダルマに痛みを感じる神経なんてあるのかね?
あ、こっちを睨んだ。怒ってる?ワナワナ震えてる。これってヤバいかな。アイツ、とんでもない瞬発力だし。後退りしながら、横目で別の通路の方を確認する。えっと、姉さんは……あっちででっかい蜥蜴の群に囲まれてる。姉さんのことだから全然心配してないけど、流石に簡単には突破できないだろうな。……ん?目が合った?
「マチルダ様、品がありませんよ。」
「姉さんこそ、そんなこと気にしてる余裕は無さそうだけど?」
姉さんが微笑みながら私に声を掛けたから、私はわざと少しムキになって応えてみた。これでちょっと緊張が解ける。いつもこうして姉さんに助けられるんだ。
しかし、私の声に反応したのか、人喰鬼が水しぶきを上げながら恐ろしい勢いでこちらに向かってくる。に、逃げなきゃ!
幸い、身体は反応してくれた。バックステップを踏み、間合いを取る。最初の一撃、右の拳の大振りはかわせた!が、巨躯を回転させるように繰り出された逆の拳が伸びてくる。私の顔より大きな拳だ。あ、避けきれない!……と思ったとき、後退った左足が足場を踏み外した。思わず、体勢を崩し──下水に落ちた。臭っ!でも、おかげで巨大な塊は私の上を通り過ぎていく。私って、ちょくちょく恵まれてるね。
なんてことを考えてる間に逃げればよかったんだ。人喰鬼は両腕で倒れた私を掴む。え?何?そんな大きな口を開けて。歯並び悪いなぁ。乱杭歯ってヤツ?しかも息が下水並みに臭い。あ、私をかじるの?え、えー!!
次の瞬間、私は再び淀んだ水しぶきを跳ね上げることになった。だけど、まだ巨大な両腕は私の肩を絞めたままだ。
──見えなかった!残るのはキラキラと輝く光塵と、抜き身の大剣をかざした姉さんだけ。ちょうど顔は見えない。そして、姉さんは巨大な腕だけに絞められている私と、先が無くなった腕の付け根からどす黒い血を噴き出している人喰鬼の間に位置し、大剣をゆっくりと振りかぶる。
こうして見るのは初めてかも知れないけれど、私は知っていた。それは私が姉さんの武具を身に纏い、竜と化したサロモに放った渾身の一撃とまるで同じだったから。
──あれも姉さんの想いだったんだ。
十数秒の後、異臭の下水道には私たちの他に動くものはなかった。
「戦場において余裕などと考えたことはありません。次の戦いも慮った上で、常に最善を尽くすだけです。
ただ、マチルダ様がご成長されたことで、私自身も持てる力が存分に発揮できるのです。」
……剣を収めながら、涼しい顔して言うなぁ。
「最初に迷うことなく、エルダーオーガの前にお出になりましたよね。そして、気を引いている間に、大剣を振るう私に戦闘力の低いリザードマンを一掃させようというのは、素晴らしい判断だったと思います。こちらが二人である以上、敵の数を減らすのが最良の戦略です。」
「そんなに深く考えてた訳じゃないんだけど……ありがと。」
姉さんがにっこりと微笑んだ。なんだか照れくさいな。
下水道の先にもいつもの禍々しい鉄の扉があった。気を取り直し──臭いのがこの後、ちゃんと消えるかどうかは気が気でなかったけど、二人で扉をくぐったんだ。