Dragon's Dogma ~数多の伝説に埋もれる一片の物語~
 巨大で、嘗ては壮麗だっただろうホール。そういえば、『赤目』と戦ったのもこんなとこだった。次はこの場所か。ん?
「マチルダ様、あれはフィ……オーラですね。」
 こちらを待つ人影。黒い装束は魔を感じさせる。その表情は漆黒のヴェールで隠されて、想像もつかない。そして、彼女の背景は揺らめいているように見える。いや、空間そのものが揺れているんだ。あれは溢れ出る魔力。そう言えば、カーちゃんもユリカもフィーの秘める魔力の高さには舌を巻いていたな。
 私を助けるために姉さんが斬ったはずだったけど、ピエロに連れていかれたし、もう簡単には驚かない。
「うん。こっちをちゃっかり待ってくれてるね。それにしても、あれがフィーだなんて、今でも信じられないよ。」
 魔導弓を構える。ただ、私はどうしていいか分かっていない。戦うの?戦えるの?集落を滅ぼした魔女なら全力でぶつかるけど、あれは共に旅した少女。私たちが助けたいフィー。
 姉さんが一歩出る。今、気付いたけど、大剣は構えていない。無防備だ。
「フィオーラ、貴女がフィーだとは俄かに信じがたい。けれど、私の小さな友のため、フィーを返してもらいます。」
「……。」
相変わらず無愛想だな。この辺りはやっぱフィーかもって思う。
「フィー、かりんが待っています。貴女を心配して。さぁ、帰りましょう。」
「……。」
魔女に動揺は見えない。

 けれど。
「フィー!アンタ前に言ったよね?『自分なんかどうでもいい』って。
 私は全然良くない。かりんちゃんだって。
 生きることに意味があるかなんて私は知らない。悪くて下品でサイテーなヤツに存在を利用されたって、それでも私を助けてくれる人がいるから、だから私は生きるんだ。だから……。」
「……価値観の押し付けという……。」
「な、なんだとぉ!」
「マチルダ様、来ます!」
私にも分かった。空間の揺らめきが大きくなる。もう揺らめきというより歪みだ。フィオーラの頭上に幾つもの火の玉が浮かんだ。そして、大きく燃え上がる。熱波に吹き飛びそうになるけど、それは辛うじて堪えた。この広い空間はなんて狭いんだ。あの炎から逃れる術なんて、きっとない。
 赤い輝きが黒い魔女を取り巻く。私は覚悟し……覚悟って何だ!?まだ、何もできてないのに──。
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