今夜、あなたの胸で……《完全版》
「彩未」



ドキンッ──



突然やさしい声で呼んで、そのままわたしの顔を覗き込んできた。


真っ直ぐ見つめてくるその瞳に、あの頃の想いが鮮明によみがえってくる。



あの頃──。


わたしはずっと琉生のことが好きだった。


琉生はそんなわたしの気持ちを知っていたのに、それを振り払うように芸能界に入った。


琉生にとってのわたしは、あの頃も今も幼馴染み。


──のはずなのに。


なぜかふわっと抱き締めてくるから、わたしの心臓は痛いくらいに激しく動き始めた。



「彩未には俺だけだろ?」



自信満々にそう言った琉生はわたしの額に唇を押し付ける。


この温もりに包まれてしまったら、わたしはこの場所から離れられなくなってしまう。


このまま流されてはダメだってわかっているのに。


頭の中にちらりと彼氏の顔が浮かんだけれど、


離れたくない──


そう思って、そのまま琉生にぎゅっとしがみついた。
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